金沢シネマストリートの消失とシネモンドのこと

 金沢の中心街、香林坊にある109に、シネモンドというミニシアターがある。今では香林坊で唯一の映画館になってしまったが、私が金沢に来たばかりの頃は109の周囲に金沢シネマストリートと呼ばれる映画館街があった。
 確か1999年には二、三件の映画館が軒を連ねていた。私の田舎は栃木の農村で、映画を観るには宇都宮か東京まで出なければいけなかったので、すぐ近所に映画館があるのは嬉しかった。
 しかし、その映画館街はすぐに無くなってしまう。当時街中が急速に寂れていったこと、郊外に次々とシネコンがオープンしていたことなどがその理由だろう。確かターンエーガンダムの劇場版を観たのが最後だったから、2000年頃に無くなったことになる。私は、そのシネマストリートの喪失を悲しむことはなかった。まだ金沢に来て日が浅かったので、たまに行く映画館が無くなった、という程度の感傷しかなかった。ちなみに、今では駅前にイオンシネマがオープンし、街中に映画館があることの有難味を身にしみて感じている。今でも香林坊に映画館街があったら、と思って止まない。
 映画館街が無くなっても、シネモンドが109に残った。このミニシアターがいつからあるのかは知らないが、手元の月刊シネマガイドを見ると、第120号ということで、ちょうど10年前、私が金沢に来たのとほぼ同時にオープンしたらしい。
 私がシネモンドに通うようになったのは三回生か四回生だった頃からだ。確か「ピンポン」が金沢市内ではシネモンドでしか掛からなくて*1、それで初めて行ったんだと思う。へー、こんなところに映画館があったんだ、と思い、その後も何となく通うようになった。同じビルに喜久屋書店が入っていたのも影響して、次第に足を運ぶ回数が増えていった。
 留年中で暇をもてあましてころは、とにかくたくさん映画を観た。そのころはシネモンドだけで月に十本くらい、掛けられる映画をほとんど観ていたと思う。郊外のシネコンでも同じくらい観ていたから、年に200〜300本くらい映画を観ていたことになる。今となっては信じられない。今は月に五本程度だから、年に六十本しか観ていない。
 シネモンドは「みんなで支えている」という感じがするミニシアターで、観客も常連さんが多い気がする。言葉を交わしたことはないが、いつも顔を合わせる常連さんがいて、その人の顔を見ると、「あ、この映画は当たりかな」と思う。常連からの「あの映画を掛けてほしい」という要求にも最大限柔軟に応えてくれる。今まで何度も経営の危機に瀕しているようだが、なんとか今でも営業を続けている。できればいつまでも今の場所にあってほしい。
 そして、今金沢では映画の灯を再び街中に取り戻そうと、「かなざわ映画の会」という団体が活動している。毎年「かなざわ映画祭」を主催し、普通の映画祭では出来ないようなディープな企画で映画界を盛り上げている。鈴木則文の再評価、クリスピン・グローヴァーの来日など、映画界への貢献は数知れない。
 金沢の映画の灯を消さないように、これからもがんばってほしい。そして私自身も、そのために一本でも多く映画を観ていこうと思う。

*1:後に郊外のシネコンでも上映された