「マエストロ!」を鑑賞

35点。難ありの指揮者と難ありのオーケストラ。そして映画の出来も非常に難あり。
ユナイテッドシネマ金沢で鑑賞。

何度も書いていますが、私はマンガ・アニメ・ライトノベル原作実写映画は全て鑑賞することにしています。北陸3県で公開されれば必ず映画館で、上映が無ければDVDで必ず鑑賞します。
というわけで、予告編の時点でかなりの地雷臭がしていたわけですが、マンガ原作ということで観てきました。さそうあきら原作の実写化映画というと、「神童」「コドモのコドモ」に次いで3作目。
まずは良かった点から書くと、序盤の展開。一度は潰れたオーケストラを再立ち上げすることになって、そこに現れた正体不明の指揮者。しかもその指揮者は正確に難があり…。という展開は、非常に良かった。観客が誰でも知っているであろうベートーベンの運命の出だしのみを延々と練習させるわけですが(しかも猛烈に怒鳴り散らしながら)、ちゃんと練習の前と後で音が格段に良くなっていることが、素人の耳でもきちんと判るようになっていたのは良かったと思います。
他にも、問題を抱えていた団員たちが、指揮者である天道のアドバイスで次々と音が良くなっていくのも良かったですし、オーケストラの成長とともに天道の格好が土方風から指揮者っぽくなっていくのも良かったと思います。

(以下ネタばらしを含むので畳みます)
ただ、良かったのはそこまでで、中盤以降は非常に退屈で、なおかつ首をひねる展開のオンパレード。
まず気になったのは、129分もあるのに登場人物たちが深く掘り下げられて語られることが無い、という点です。
二、三十人からなる編成のオーケストラなのに、セリフがまともにあるのは各パートリーダーの数名のみ。まあそれは仕方ないとしても、その数名すらもそのキャラが掘り下げられることはありませんでした。
129分もあるのに映画としてかなり薄っぺらなんですけど、これは音楽を聴かせすぎだからだと思います。演奏シーンがどれもこれも長いんですよ。そして、演奏時間が長いことの弊害として、クライマックスが盛り上がらない、というのもあると思います。クライマックスがコンサート本番になるのは最初から分かりきっているわけですけど、前半から中盤にかけてこれでもかと演奏を長時間聴いてしまうために、コンサート本番の演奏にインパクトがまるでありませんでした。演奏を聞かせるのは最低限、音楽の上達が分かる程度にして、フレーズを丸々聞かせるのはクライマックスまでは控えるようにしたほうが良かったと思います。その点、物語序盤の、運命の出だしのみで団員の上達を表現したのは良かった。
演出で気になったのは、登場人物たちのモノローグ。演奏中に「速い」とか、「遅れた」とか、心の中の声をわざわざ聴かせる演出。要するに、漫画的な演出をそのまま映画に持ち込んでしまっているわけですが、不自然すぎます。そういうのは、役者の演技で表現するものであって、セリフで説明するようなことではないでしょう。テンポが良かった序盤でしたが、この演出にはイラっときました。
あとはラストに向けての展開と、大問題のラストですよね。
天道がかつて起こした詐欺事件が露顕して、スポンサーが降りてしまい、究極的な資金難に陥ってしまいます。
クソジジイの自業自得なわけですけど、なんかうやむやというか、「あれは法律的には問題なかった」というセリフと、金策に走り回る楽団員の姿を軽く映すだけでなんとなくなんとかなってしまう。ジジイの尻拭いを、何の不満も無いままに団員たちがする、という展開も不自然なわけですけど、そもそもその程度の金策でなんとかなるなら、どうして今までスポンサー探しをして来なかったの?という疑問がふつふつと。
唐突なジジイの過去話にも何の意外性も無く、物語はラストのコンサート本番へ。

ここで、超驚愕の展開として、コンサート最終日は何と無人!どうも、ジジイが全席を買い取り、死にかけている妻一人のために演奏するのだという。
ここで、完全に脱力してしまいました。
全席買い占める金があったら、ちゃんと楽団員に給料を払ってやれよ!とういか、そもそもこの映画全体に、失業したはずの団員たちがどうやって暮らしているのか、とか、その手の経済観念が皆無なんですよ。
クソジジイに、全席を買い取るほどの資金力があるならそもそも金策に走る必要なんか無いし、資金力が無いのに無理やり無観客にしたのなら(そして多分こっち)、この後ギャラも無く職も無い団員たちはどうすればいいのでしょうか?
妻一人に演奏を聴かせるのだって、別に本番じゃなくてリハーサルの時で良いわけですし…。

最初の1時間はかなり楽しく観たのですが、中盤以降完全に脱力してしまいました。オススメはしません。