絶望先生の和服の着こなしを考察してみる(1)糸色望

  書生スタイル

一つ上のエントリーで絶望先生を紹介したので、ちょっと年末の暇に任せて絶望先生の登場人物の着こなしについて言及してみたいと思います。
というのも、以前絶望先生の15巻を紹介したときに瞬間最大風速的にアクセスが微増したので、絶望先生を餌に和服に興味を持ってもらえたら、と色気を出したからです。
まずは絶望先生からです。あと、絶望先生のコスプレをしたい人にも参考になると思います。
絶望先生ですが、基本的に盛夏の時期以外は書生スタイルです。盛夏の時期は浴衣の着流し*1です。
そしてその書生スタイルですが、基本的に織り絣(かすり)のきものに縞の袴、スタンドカラーシャツという着こなしを好んでいるようです。男物の普段着には他には小紋や縞もありますが、浴衣以外はほぼ全て絣のきもので通しているようです。おそらく何らかのこだわりがあるのでしょう。
ここで絣というのは反物の柄の出し方のことです。布には、織りで出す柄と、染めで出す柄があります。織り物というのは文字通り異なる色の糸を使い、柄を織り出します。染め物というのは反物を織ってから、染料で柄を染めたものです。
そして、織り絣というのは予め部分染めした糸で反物を織ることで柄を出す技法のことです。つまり、十字絣の反物を作るときは織り上げたときに十字模様が出るように予め糸を部分染めし、柄が崩れないように丁寧に織り上げるのです。当然織っている間に微妙に柄がずれていきますから、最終的にはかすれたような風合いになり、これが絣の語源でもあります。十字絣、矢絣、井桁絣などが男物の普段着では一般的でしょうか。他にも琉球絣や、インドネシアイカットという絣模様も、江戸期には日本に入ってきているようです。
素材ですが、絣ということは基本的に木綿か絹だと思われます。絶望先生の実家は元華族の旧家で、絶望先生はぼんぼんという設定ですから、おそらく紬*2の絣を颯爽と着ているのではないでしょうか。そして、夏はおそらく上布*3などの高級品を着ているのでしょう。

      
琉球絣(左)と十字絣(右) 9巻より

時々プリント染めの、おそらくプレタ(吊しの出来合品)の安物と思しききものでコスプレしている人をイベントで見かけますが、明らかな間違いなので止めた方がいいでしょう。
袴ですが、基本的に行灯袴か馬乗り袴です。袴の形にこだわりはないようです。

  
行灯袴(左)、馬乗り袴(右) こだわりはなさそう。ともに15巻より

ただ、柄は全て縞模様です。どの話でもほとんど皺が出来ずにビシッと着こなしていることから、おそらく仙台平*4かそれに準ずる高級品と思われます。足裁きに優れ、皺にもなりにくい逸品です。私も一本欲しい。
これまた木綿ならまだしも、ぺらぺらのポリエステルの袴でコスプレする人がいますが、明確な間違いですから気をつけましょう。
羽織ですが、真冬でも羽織を羽織っているシーンはありません。また、下に襦袢を重ねたりもせず、専らコートやマフラーなどで寒暖を調整しているようです。和服には「伊達の痩せ着」という言葉があって、(安物の)ウールなどをぶくぶくと着込むよりも紬など絹でスッキリと着こなすことを善しとする文化がありますから、先生もそれに習っているのでしょう。
ただただシンプルに、しかし着るからには高級品、という裕福な家庭に育った人間らしい着こなしです。
それにしても絶望先生は衣装持ちですね。一般読者は「いつも和服の人」という程度の認識なんでしょうが、よく見ると毎回柄が微妙に違ったり、柄足袋であそんでいたり、ブーツだったりと、細かいところまで素晴らしく意識が行き届いています。15巻まで出ていますが、全く同じ着こなし、というのはほとんど無いのではないでしょうか。私などは小物で遊ぶほど数を持っていないので、本当にうらやましいです。

この話題ですが、まだまだ続きます。

*1:長着のみで、羽織や袴を身につけないこと

*2:元は農民の野良着として生まれた丈夫な絹織物。普段着の最高級品。機械化が難しく、今では正装用のお召しよりも高い価格で取引される

*3:細い麻糸で手織りした麻布の最高級品。能登上布、越後上布などが有名

*4:仙台で生産されている最高級お召し袴