シネモンドでアルドリッチ特集を鑑賞

カリフォルニアドールズ
96点。歴史的傑作。

この映画、なぜか日本版DVDが出ていない。昔、金曜ロードショーで流れていた時期もあったので、権利面のトラブルなどではないと思うんだけど、なんでだろう。
というわけで、シネモンドで上映が決まったときからずっと楽しみにしていました。大昔、中学のときに途中からならテレビで観たことがあって、一度で良いから映画館で観ておきたかったのです。
恥ずかしながら、アルドリッチ作品は「ロンゲスト・ヤード」しか観たことがなくて、これが人生で2本目のアルドリッチ映画。

アイリスとモリーの新人女子プロレスラータッグ「カリフォルニアドールズ」。アイリスの恋人でマネージャーのハリー・シアーズ。3人は地方のどさ回りをしながら、表舞台に浮上するチャンスを狙っていた。そんなとき、リノで開かれるタイトルマッチの話が持ち上がり・・・。

巨匠・アルドリッチの遺作で、初上映は81年。全体的に、70年代のアメリカンニューシネマ的な雰囲気が漂っている。もっと言ってしまえば、アメリカンニューシネマ最後の傑作、と言えるかもしれない。
何が素晴らしいってこれ、実は物凄くミニマムなお話なんですよ。彼女たちは最後、見事なアメリカンドリームをなし遂げるんだけど、それも所詮は女子プロレスという非常に狭いショービジネスの世界の話であって、タイトルマッチとはいえ、賞金は1万ドル。3人で分けたら3000ドル強、経費をさっ引いたら普通のサラリーマンの月給程度しか残らないでしょう。非常に奇麗でスカッとするラストなんだけど、実は彼女たちの幸せを確約するような、一筋縄のアメリカンドリームではない。
でもね、そのスケールの小ささが返って心地よいというか、そういう毎日の積み重ねが人生を形作っていくんだ、という気にさせてくれる。
作中で、ハリーが繰り返す「正式なものは高くつく」というセリフ。要するに「身の程をわきまえる」という事なんだけど、自分の身の程をわきまえた上で、精一杯やれることはやる、明日を信じて頑張る。そんなことの大切さを思い出させてくれる映画でした。
巨匠からの、30年越しのラストエール。前述したように、日本ではソフト化されていません。石川県での公開を機に、是非観ておきましょう。

合衆国最後の日
86点。傑作。

カリフォルニアドールズに引き続いて鑑賞。

元空軍将官が、脱獄囚を引き連れミサイル基地をジャック。大統領を始めとしたアメリカ政府を相手に、ベトナム戦争の機密文書公開を迫る。

とにかくサスペンスとして一級品。アメリカ軍がミサイル基地を奪還するのが先か、デル将軍が基地を完全掌握するのが先かのタイムサスペンスに始まり、デル将軍とアメリカ高官の交渉、そして最後の狙撃シーン。全てが緊張感に溢れ、しかも「もしかしたら・・・」と思わせてくれるリアリティも兼ね備えている。一大娯楽サスペンスであると同時に、きちんと計算され尽くした芸術作品でもある希有な傑作。

特に、あのラストシーンは観る人によっていろいろな事を感じさせてくれるはず。

映像が物凄く奇麗だったので、多分デジタルリマスタリングしてあるのだと思います。
こちらはそのデジタルリマスタリング版のブルーレイが今度出るみたい。カリフォルニアドールズも出してくれないものか・・・。

クラウド・アトラス

2週間ほど前、ユナイテッドシネマ金沢で「クラウド・アトラス」鑑賞。
マトリックスで一世を風靡したウォシャウスキー姉弟最新作。

91点。SF映画史に残る記念碑的傑作。全く新しい、映画史を一つ更新したといっても過言ではないマスターピース

実は個人的にはマトリックス三部作って、全くピンと来なくて、革新的な映像美は認めるけれど、映画としては駄作だと思っています。だけど、その後に作った「スピードレーサー(マッハGO!GO!GO!のハリウッド実写版)」は、商業的には大コケしたんだけど、物凄く良い映画でした。
というわけで、期待半分で初日に観に行きました。

この映画に関する宣伝を観たときに、ウォシャウスキー"兄弟"だったのが"姉弟"になっていて、兄のラリー・ウォシャウスキーの名前がラナ・ウォシャウスキーになっていて、「あれ?」と思って調べてみたら、「スピードレーサー」制作の後に性同一性障害をカミングアウト(というか離婚した元妻に暴露された)、性別適合手術を受けて女性になったようです。 現在は、パートナーである女性とともに暮らしているとのこと。以前から女装癖やバイセクシャル疑惑が報道されていましたが、インタビュー記事などを読むと、本人にとって満足いく着地点を見つけられたようでなによりです。

この映画、180分と非常に長い映画です。
しかも、その180分の中で、6つの物語がモザイク状に交じり合いながら同時進行していく、というややこしい構造。
その6つの物語は、1849年に始まり、2341年までが語られるのですが、基本的に同じ役者が演じています。10数人の役者が、それこそ多様に渡る人種・性別・宗教の人間を演じていく。要するに、魂の輪廻転生を表している。
その時を越えた6つの物語が、最終的に魂と愛の永遠と偏在を物語っていく、という構成になっています。

これって、日本人ならよく似た構造の漫画を知っているはず。そう、手塚治虫の「火の鳥」です。手塚治虫とラナ・ウォシャウスキー、二人とも仏教思想に強い影響を受けている、という点でもよく似ています。そして、「火の鳥」的な作品って、漫画や小説、映画などで色々と試みられて聞いてるのですが、正直なところ成功例をほとんど見たことが無い。
しかし、この映画はかなり高いレベルでそれに成功しています。まず、これだけでも、観る価値があろうというもの。

6つの物語は、それぞれに小さな連結点を持っています。
粗筋を説明すると

・1849年の物語
「弁護士、アダム・ユーイングの太平洋航海日誌」。
弁護士ユーイングが、公開中に黒人水夫に命を助けられ、その後黒人解放運動に人生を捧げる決心をするまでの物語。

・1936年の物語
「若き作曲家ロバート・フロピッシャーがかつての恋人シックススミスに宛てた手紙」
ロバートは権威ある作曲家に弟子入りし、「クラウド・アトラス六重奏」という大作を作曲する。しかし、その栄光を師匠に横取りされそうになる。その時、「ユーイングの航海日誌」を読み、ユーイングに勇気づけられた彼は師匠の元を出奔。一人で大作を完成させた後、かつての恋人(ロバートは同性愛者で、シックススミスは男性)に遺書を遺し自殺する。

・1973年の物語
「ルイサ・レイ 最初の事件」
ジャーナリストのルイサ・レイは、物理学者として成功したシックススミス博士から一冊のファイルを託される。そのファイルは、アメリカの原子力行政にストップをかけようと圧力をかける石油メジャーを告発する内容だった。
シックススミス博士とその部下アイザックは石油メジャーが放った殺し屋によって暗殺されてしまう。くじけそうになるレイだが、たまたまレコード店で聞いた「クラウド・アトラス六重奏」に勇気づけられ、ファイルの公開に成功。アメリカのエネルギー行政は原子力に大きく舵取りしていくことになる。

・2012年の物語
「ティモシー・キャヴェンディッシュのおぞましき試練」
老編集者・ティモシーは一つの危機に直面する。担当する作家と印税の配分で揉め、その作家の一味から暴力的な脅しをかけられてしまう。兼ねてから不仲だった兄に救済を求めるが、その兄の策略で老人ホームに入れられてしまう。ティモシーは、その老人ホームからの脱走を企て、さらにはその騒動を元に小説を執筆、作家としての成功を手に入れる。

・2144年の物語
「ソンミ451のオリゾン」
舞台は22世紀の韓国。そこは、クローン人間を奴隷として使う、おぞましい未来世界。クローン少女の一人、ソンミ451は、ティモシーの小説が原作の映画から影響を受け、反政府運動に加担していく。

・2321年の物語
「ソルーシャの渡しとその後のすべて」
原子力行政のツケとして、22世紀末に文明社会は滅んでしまう。そのさらに未来、人類はスペースコロニーに逃げ延びたわずかな文明人と、地球で先時代的な暮らしを続ける人々のみが生き延びていた。また、24世紀の人々は、神格化されたソンミを神として信仰していた。
スペースコロニーからやって来たメロニムと、原住民ザックリーは「禁断の山」へと向かい、先文明の超光速通信を用いて太陽系外の宇宙人にSOSを発信。助けに来た宇宙人によって人類は救われる。

これら6つの物語が、お互いに接点と共通のテーマを持ちつつ、最後は一つの大団円へと一気に収束していくのです。
ラスト30分は、次から次へと伏線が回収されて、瞬きする暇すら無かった。
また、6つの物語それぞれが、単一エピソードとしても面白くて、3時間が本当にあっと言う間でした。これ、30分×6話のテレビシリーズとして観たとしても、十二分に称賛できる内容です。それが、さらにモザイク状に入り乱れながら流れていく、という奇跡のような作品でした。

北陸ではどうもヒットしていないようで、上映会数も少なくなってきました。
絶対に映画館で観ておくべき傑作。オススメです。

レールガンは可能か不可能か

http://kodoku21.blog83.fc2.com/blog-entry-2202.html

1ページに3カ所は突っ込み所がある柳田先生がまた変なことを。空想科学読本は、基本的に科学的な誤りだらけなので、読んだ内容をそのまま話すと馬鹿だと思われるので注意。

確かに、運動量保存の法則をそのまま適用すれば、5(10^-3)kgのコインで1.5(10^3)kgの車を吹っ飛ばすには約3(10^6)m/sの初速が必要で、これは音速の約1万倍、光速の約1%、というべらぼうな速度になる。
しかし、普通に考えればそんな速度の物体を車にぶつけたところで、車体を貫通してしまって吹っ飛びようがない。ここは、燃料タンクなどに命中してその爆発力で吹っ飛んだ、と考えるのが妥当だろう。
実際、一般的なライフル銃の弾丸が約10グラムで初速マッハ2〜3と言われているから、500円玉(約7グラム)やゲームセンターのコイン(約5から10グラム)をマッハ3で射出すれば、十分に燃料タンクを貫通することは出来る。おそらく、作者はこの数値を指標に御坂美琴の能力を定めたであろうことは想像に難くない。

私が空想科学読本の許せないところは、浅はかな、時には科学的誤解や誤謬を含んだ視点で、作者(とファン)が築いた世界観に土足で踏み込むところだ。
今回のこの記事に関してもそうで、とりあえずこれだけは言っておきたい。

原作の記述に従えば、御坂美琴の能力を使ってレールガンを撃つことは可能である。

原作を読めばすぐに分かることなのだが、御坂美琴は実際に触れていなくても、ある程度離れたところにも電場・磁場を形成することが可能なので、レールの長さは事実上視界や判断能力が及ぶ範囲まである。よって、マッハ3まで加速するのに、コインを溶かすほどの大きい電流はいらないんですよ。おまけに、御坂美琴は磁場も自由に制御できるから、電流を増やせないのなら磁場を強くすれば良い。
とりあえず、科学的な突っ込みを入れたければ原作を読みなさい。

花咲くいろは 追記

劇場版花咲くいろはで、89年の金沢市およびのと鉄道が頻繁に出てくる。
私が金沢に移り住んだのは99年なので、80年代の金沢は知りようがないのだが、おそらくかなり正確に再現されているのではないだろうか。
金沢はここ数年で大きく再開発が進み、とくに駅前と街中(香林坊周辺)は全く別の町にリニューアルしてしまった。
画面の中の金沢は、まさしく私が大学に入りたてのころの金沢を再現していました。
個人的には、香林坊シネマストリートが登場したのが嬉しかった。2001年頃まで香林坊に存在した映画館街で、私もよく利用していたのだが、いつのまにか無くなってしまった。

あと、のと鉄道の車両がNT100系気動車だった。能登線珠洲方面)廃止のころまで使用されていたと記憶しています。今でも、蛸島駅跡に展示されています。

劇場版花咲くいろは HOME SWEET HOME

ユナイテッドシネマ金沢で「劇場版花咲くいろは」鑑賞。先行上映初日で、原動画は緒花のアップでした。

88点。傑作。
個人的に、テレビ版で抱いていた不満点が全て解消されました。
私はテレビ版のブルーレイを全て揃えているくらいにはこのアニメが好きなんですが、テレビ版に2点、大きな不満を抱えていました。
一つ目は、物語の縦糸が弱いこと。
花咲くいろはの原作チームの一人で、シリーズ構成(脚本家チームのまとめ役)である岡田磨里作品共通の傾向として、「親子関係」とか「過去の自分と現在の自分」というような物語の縦糸と、現在の主人公を取り巻く恋愛・友情・人間関係という横糸で物語を組み立てていく、というのがある(気がする)。出世作である「true tears」とか、近年の代表作「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」なんかはそれが物凄く奇麗に成功を収めた例だと思う。
ただ、「花咲くいろは」はそういった傑作と比べると、物語全体の語られ方が雑だったと思う。祖母と母の関係が序盤では全く語られないし、2クール目に入って各キャラの掘り下げに話数を割いたために、ラストに向けてのドラマが駆け足になってしまった。
あともう一つは、主人公である緒花が全く成長しないこと。
一見すると、緒花の成長物語のように錯覚してしまうけど、よくよく観ると、緒花って物語の最初と最後でほとんど変化しないんですよ。
三人娘の中で一番大人だし(要するに諦めが良くコミュニケーション能力が高い)、最初から前向きで一生懸命で何事にも動じない。人間強度が非常に頑強なので、変化しようが無いのです。
しかし今回の劇場版で、その不満点が全て解消されたうえで、ドラマとしてものすごく奇麗にテレビ版を補完してくれました。
16歳の緒花と16歳のときの母親を交互に対比させながら描くことによって、「10代のときの母親も人生に迷い、16歳のときに大きな転機を迎えた」→「緒花にもこれから何らかの転機が訪れるかもしれない」と思わせてくれた。「緒花はまだ若く(もっと言ってしまえば幼い)、そして若さというのはどんな可能性だって広がっているということなんだ」という圧倒的な青春讃歌で、若者への応援歌。

上映時間が約70分と短く、テレビ版未視聴者への配慮(キャラ紹介とか)は全くないので、オススメはしづらいのですが、傑作だと思います。テレビ版を観ている人は絶対に観た方が良いでしょう。

俺アカデミー賞

アカデミー賞 各部門賞・国内映画

最優秀作品賞
 「桐島、部活やめるってよ

最優秀監督賞
 入江悠(「サイタマノラッパー3」)

最優秀脚本賞
 吉田大八(「桐島、部活やめるってよ」)

最優秀主演男優賞
  西島秀俊(「cut」「セイジ 陸の魚」)

最優秀主演女優賞
 樹木希林(「わが母の記」)

最優秀助演男優賞
 駒木根隆介(「サイタマノラッパー3」)

最優秀助演女優賞
 前田敦子(「苦役列車」)

最優秀新人賞
 東出昌大(「桐島、部活やめるってよ」)
 橋本愛(「桐島、部活やめるってよ」「Another」他多数)

最優秀アニメーション作品
 「虹色ほたる

最優秀ノンフィクション作品
 「隣る人」