クラウド・アトラス

2週間ほど前、ユナイテッドシネマ金沢で「クラウド・アトラス」鑑賞。
マトリックスで一世を風靡したウォシャウスキー姉弟最新作。

91点。SF映画史に残る記念碑的傑作。全く新しい、映画史を一つ更新したといっても過言ではないマスターピース

実は個人的にはマトリックス三部作って、全くピンと来なくて、革新的な映像美は認めるけれど、映画としては駄作だと思っています。だけど、その後に作った「スピードレーサー(マッハGO!GO!GO!のハリウッド実写版)」は、商業的には大コケしたんだけど、物凄く良い映画でした。
というわけで、期待半分で初日に観に行きました。

この映画に関する宣伝を観たときに、ウォシャウスキー"兄弟"だったのが"姉弟"になっていて、兄のラリー・ウォシャウスキーの名前がラナ・ウォシャウスキーになっていて、「あれ?」と思って調べてみたら、「スピードレーサー」制作の後に性同一性障害をカミングアウト(というか離婚した元妻に暴露された)、性別適合手術を受けて女性になったようです。 現在は、パートナーである女性とともに暮らしているとのこと。以前から女装癖やバイセクシャル疑惑が報道されていましたが、インタビュー記事などを読むと、本人にとって満足いく着地点を見つけられたようでなによりです。

この映画、180分と非常に長い映画です。
しかも、その180分の中で、6つの物語がモザイク状に交じり合いながら同時進行していく、というややこしい構造。
その6つの物語は、1849年に始まり、2341年までが語られるのですが、基本的に同じ役者が演じています。10数人の役者が、それこそ多様に渡る人種・性別・宗教の人間を演じていく。要するに、魂の輪廻転生を表している。
その時を越えた6つの物語が、最終的に魂と愛の永遠と偏在を物語っていく、という構成になっています。

これって、日本人ならよく似た構造の漫画を知っているはず。そう、手塚治虫の「火の鳥」です。手塚治虫とラナ・ウォシャウスキー、二人とも仏教思想に強い影響を受けている、という点でもよく似ています。そして、「火の鳥」的な作品って、漫画や小説、映画などで色々と試みられて聞いてるのですが、正直なところ成功例をほとんど見たことが無い。
しかし、この映画はかなり高いレベルでそれに成功しています。まず、これだけでも、観る価値があろうというもの。

6つの物語は、それぞれに小さな連結点を持っています。
粗筋を説明すると

・1849年の物語
「弁護士、アダム・ユーイングの太平洋航海日誌」。
弁護士ユーイングが、公開中に黒人水夫に命を助けられ、その後黒人解放運動に人生を捧げる決心をするまでの物語。

・1936年の物語
「若き作曲家ロバート・フロピッシャーがかつての恋人シックススミスに宛てた手紙」
ロバートは権威ある作曲家に弟子入りし、「クラウド・アトラス六重奏」という大作を作曲する。しかし、その栄光を師匠に横取りされそうになる。その時、「ユーイングの航海日誌」を読み、ユーイングに勇気づけられた彼は師匠の元を出奔。一人で大作を完成させた後、かつての恋人(ロバートは同性愛者で、シックススミスは男性)に遺書を遺し自殺する。

・1973年の物語
「ルイサ・レイ 最初の事件」
ジャーナリストのルイサ・レイは、物理学者として成功したシックススミス博士から一冊のファイルを託される。そのファイルは、アメリカの原子力行政にストップをかけようと圧力をかける石油メジャーを告発する内容だった。
シックススミス博士とその部下アイザックは石油メジャーが放った殺し屋によって暗殺されてしまう。くじけそうになるレイだが、たまたまレコード店で聞いた「クラウド・アトラス六重奏」に勇気づけられ、ファイルの公開に成功。アメリカのエネルギー行政は原子力に大きく舵取りしていくことになる。

・2012年の物語
「ティモシー・キャヴェンディッシュのおぞましき試練」
老編集者・ティモシーは一つの危機に直面する。担当する作家と印税の配分で揉め、その作家の一味から暴力的な脅しをかけられてしまう。兼ねてから不仲だった兄に救済を求めるが、その兄の策略で老人ホームに入れられてしまう。ティモシーは、その老人ホームからの脱走を企て、さらにはその騒動を元に小説を執筆、作家としての成功を手に入れる。

・2144年の物語
「ソンミ451のオリゾン」
舞台は22世紀の韓国。そこは、クローン人間を奴隷として使う、おぞましい未来世界。クローン少女の一人、ソンミ451は、ティモシーの小説が原作の映画から影響を受け、反政府運動に加担していく。

・2321年の物語
「ソルーシャの渡しとその後のすべて」
原子力行政のツケとして、22世紀末に文明社会は滅んでしまう。そのさらに未来、人類はスペースコロニーに逃げ延びたわずかな文明人と、地球で先時代的な暮らしを続ける人々のみが生き延びていた。また、24世紀の人々は、神格化されたソンミを神として信仰していた。
スペースコロニーからやって来たメロニムと、原住民ザックリーは「禁断の山」へと向かい、先文明の超光速通信を用いて太陽系外の宇宙人にSOSを発信。助けに来た宇宙人によって人類は救われる。

これら6つの物語が、お互いに接点と共通のテーマを持ちつつ、最後は一つの大団円へと一気に収束していくのです。
ラスト30分は、次から次へと伏線が回収されて、瞬きする暇すら無かった。
また、6つの物語それぞれが、単一エピソードとしても面白くて、3時間が本当にあっと言う間でした。これ、30分×6話のテレビシリーズとして観たとしても、十二分に称賛できる内容です。それが、さらにモザイク状に入り乱れながら流れていく、という奇跡のような作品でした。

北陸ではどうもヒットしていないようで、上映会数も少なくなってきました。
絶対に映画館で観ておくべき傑作。オススメです。