和服のTPO

 ほぼ一年ぶりに、和服入門の更新。
 和服を一揃えすると、いろんなところに出かけたくなります。ただ、最初は和服の格式についてどの程度お洒落すればいいのか悩む事も多いでしょう。
 というわけで、私自身の着こなし一例として、TPOについて書いてみたいと思います。ただ、はっきり言って和服の着こなしは千差万別、少ないながらも和装派男性の知り合いがいますが、みんな自分なりの着こなしを楽しんでいます。

形状による格式の変化

 男の和服には、長着・羽織・袴という三つのパーツがあるのですが、その組み合わせによって格式が変化していきます。というわけで、そのあたりについてまずかんたんに。

着流しはジーンズにシャツ

 個人的には、着流しは洋服でいうところのジーンズにシャツみたいなものだと思っています。部屋着からちょっとした買い物まで。気軽にふらりと飲みに行くくらいなら着流しでも充分でしょう。帯の種類や結び方は格式には影響がないので、好きなものを好きなように身につければいいと思います。私は普段動きやすいように細袴をはいていますが、木綿の簡素なもので格式はほとんど着流しと変わらない、と考えています。

羽織を羽織ると、少し格式が上がります

 着流しに羽織を羽織ると、少し格式が上がります。洋服ではジャケットを羽織るのと同様の感覚でしょうか。観劇やカジュアルな催し物、お茶会程度なら素材・柄に関わらず羽織を一枚羽織っていけばよいと思います。

羽織袴はスーツ

 羽織袴でびしっと決めれば、もうどこに行っても問題がありません。洋服で例えると、スーツで決めているようなものです。知人の結婚披露宴程度までなら紋無しでも十二分でしょう。近親者の結婚式やお葬式などは、紋付きの一級礼装が必要だとは思います。

和服は足し算のお洒落

 ここまでをまとめると、和服は足し算のお洒落だと個人的には思っています。長着と帯のみの着流しが一番シンプルなものとしてまずあって、そこに羽織・袴・足袋・扇子と足していく事で格式が上がっていきます。着流しに飽きてきたら、色々なものを買い足して身につけていくのは本当に楽しいですよ。

素材による格式の変化

 和服は、素材によって格式が変化します。これは、江戸期に身分制度によって身につけて良い素材が厳しく統制されていた名残だといわれています。

絹>それ以外

 基本的に、絹の方が格式が高いです。羽織袴でも、木綿や麻では格式が1段劣ります。木綿は普段着、というのは頭の隅に置いておいて差し支えないでしょう。ただ、ウール・ポリエステルは明治期以降に普及した素材なので、結構いろんな場所に着ていっても問題ないと思います。

紬は普段着

 江戸期に、絹織物の中で唯一農工商に着用が許されていた紬は、礼服に使用する事が出来ません。ただ、ご存じの通り大島紬に代表されるように、紬は生地の中でも最も高い部類に入ります。なので、せっかく紬を仕立てても礼服としては使えないし、普段着には高価だし、ということでなかなか着るタイミングを見いだせない人も多いようです。個人的には、死蔵するのは本当に勿体ないので、どんどん普段着として着てしまうべきだと思います。というか、私は古着屋などで買った紬の袷をこの時期普段着として使用しています。絹織物である紬はとても着心地が良く、軽くて丈夫で暖かいので普段着として着てこそその良さが発揮されると言って良いでしょう。汚れてもドライクリーニングで充分綺麗になるので、虫食いにさえ気をつければ最高の普段着になってくれます。
 もっとも、普段着といっても知人の結婚式程度なら問題ないと思います。おそらく新郎以外ではおり袴の人間はいないでしょうから、かえってお召しや紋付きで行くよりも、目立ちすぎず嫌味が少なくて良いかもしれません。

結局は自分の中にこだわりをもてるかどうか

 以上、私なりにこうしています、という点を上げさせてもらいました。あくまで「私の場合」ですので、各自自分なりのこだわりを持って和服を着ていけばいいと思います。ぶっちゃけてしまえば、現代人の大半は和服に関する知識なんかちっとも持っていないので、どんな恰好をしていても「あ、この人は和服を着てる。めずらしー」以外の感想を抱きません。要は、自分の中に自分なりのこだわりを以下に構築できるか、というのが世にも希少な男性和装者の心のよりどころになるのだと思います。