金沢市立玉川図書館のこと

 昨日は金沢市の中心街にかつて存在していた喜久屋書店香林坊店について書いた。今年で29歳になる私が20代の全てを過ごした金沢について、今のうちに少しずつ書き留めておこうと思い立ったからだ。幸いこのブログは一日40〜50件ほどのユニークアクセスがあり、そのうち20件ほどはブックマーク等からアクセスしてくださる定期読者だ。多少の張り合いもあるというものだ。
 書こうとしているのは主に記憶であって、記録ではない。ここ十年で私も金沢も大きく様変わりした。私が書こうとしている文章は、当時の金沢と現在の金沢、当時の私と現在の私が入り交じった内容になる。だから、もしかしたら真実とは異なった内容になるかもしれない。でもそれでもいい。思い出とはそのように蓄積されていくものだ。

 喜久屋書店が潰れた後、私は大学に完全復帰して、その次の年の卒業を目指して真面目に単位を取り始めた。しかし、大幅にバイトを縮小せざるを得ず、当然の帰結として買える本の量が大幅に減ってしまった。その反面バイトの時間が減ったので、本を読む時間は増えた。最初の半年は長年溜め込んだ積ん読本を消化していったのだが、それも読んでしまうと活字に飢えるようになった。
 そんな時、何がきっかけかは忘れたが玉川にある金沢市立図書館に行った。意外に思われるかもしれないが、五回生になるまで市立図書館には行ったことがなかった。私の出身地である農村には公立図書館がなかったので、図書館で本を借りる、という習慣がなかったのだ。
 初めて行った金沢の市立図書館はすばらしい図書館だった。まずはそのすばらしい金沢の図書館事情について解説しておこう。
 金沢には泉野と玉川に二つの中央館、分館として三つの児童図書館がある。蔵書量は約90万冊*1。これは人口50万足らずの地方都市としてはかなり多いと思う*2日本海側唯一の国連寄託図書館でもある。ジャンルもかなり幅広く収蔵していて、利用者も多い。これもひとえに、金沢の人間が学問好きで、なおかつ趣味・道楽に金と手間を惜しまない傾奇者の精神を古くから受け継いでいるからだろう。図書館を中心にした読み聞かせや朗読会、歴史や伝統文化を学ぶ講習会も活発に開かれていて、地域の交流の場にもなっている。
 私はたちまち図書館の虜になった。そもそも本がたくさんある場所にさえいれば何時間でも時間がつぶせてしまえる質なのだ。土日はかかさず泉野か玉川のどちらかに行った。大学院の入試勉強をしていた夏休みなどは、アパートにクーラーがないのも手伝って、毎日朝から晩まで図書館に入り浸った。大学院に進学した後は、さすがに毎週通う暇は無くなってしまったが、それでもそれなりの量の本を常に借りている。
 特に最近はコミュニティバスである『ふらっとバス』が開通し、玉川図書館のすぐ近くを通るようになった。雪の日などはアパートの近くのバス停でふらっとバスに乗り、玉川図書館に行く。玉川図書館で本を借りたらその足で図書館すぐ近くの近江町市場に行き、酒の肴を買ってまたふらっとバスで帰ってくる、というのがおきまりのコースになった。
 当たり前だが、無料で借りられるので、今までは読まなかったような本、郷土資料や雑学本、人類文化・宗教関連の本も積極的に読むようになった。こうして、今の『とにかく興味のある物は何でも読む』という読書スタイルが確立していった。
 もしこのブログを読んでいて、金沢に住んでいるけど図書館には行ったことがない、という人がいたらぜひ一度行ってみてほしい。全国に誇れるすばらしい図書館がそこにある。

*1:http://plng.p.u-tokyo.ac.jp/text/PLNG/komatsu2.html 2000年の数字。今は100万冊に迫っているはず

*2:たとえば、日本海側最大の都市である新潟市は人口80万に対して蔵書量は約100万冊である。http://www.nnl.jp/niigata.html