自然と身につく「和しぐさ」

 一応和服ブログを標榜しているので、たまには和服のことも書こうかしら。
 最近、よく「和仕草」についての本を見かけます。要は、江戸情緒(私、あんまりこの言葉好きじゃありません)を感じさせるような仕草、習慣を見直そう、という趣旨で書かれた本です。
 でもねえ、はっきり言って、和服で半年も過ごせば自然と身につきますよ、和仕草。というか、和服で過ごさないのであれば、べつに身につける必要なんか無いですよ。年に数回しか和服を着ないような人はそもそも身につける必要は無いですし、毎日和服を着ていればイヤでも身につくのが和仕草ではないでしょうか。
 しかし、ここは和服ブログでもあるので「これだけは身につけておきたい和仕草」をいくつかレクチャーしたいと思います。というのも、半年もすれば自然と身につく、と書きましたが、身につくまでに和服を何着か傷めたりもするんですよね。私は最初の半年で5着ほど和服を傷めました。では、最低限和服を傷めないためのレクチャーです。

手を伸ばすときは袂を押さえる

 食卓で醤油を取るとき、ドアノブを掴むとき、とにかく手を伸ばすときは必ず袂を押さえるようにします。これは、周囲に突起物や汚れの原因になるものの有る無しは関係ありません。必ず、手を伸ばすときは袂を押さえましょう。特に、袂に財布や携帯を入れていいるときはその重みで袂が広がりますので要注意です。
 常に和服でいれば、数着の代償と共に自然と身につきますが、最初から気をつけておくことに越したことはありません。

階段を上るときは袴の裾をたくし上げる

 平屋建てがほとんどだった昔に発展した袴は、階段を上るようにはできていません。細袴はともかく、普通の袴は階段を上るときに裾を踏んだりして傷めてしまうことがあります。私は袴の横の開いている部分から手を入れて、膝下まで袴をたくし上げて階段を上ることにしています。横から手を突っ込むことで、その部分を手すりなどに引っかけることもありません。袴を汚したり傷めたりしないためにも初期から身につけておくといいでしょう。

人混みを歩くときは袂をつまみ上げる

 これはマナーの問題です。私は、懐ではなく袂に財布や携帯を入れています。しかし、そうすると袂が重くなり、振り回したりするとちょっとした凶器になってしまいます。なので、人混みを歩くときは袂を掴んで、すれ違う人に当たったり引っかけたりしないようにしたりしています。これは、入門書などにはほとんど書かれていませんが意外と重要なことだと思います。金沢ではまだ理解があって、和服で風を切って歩くことができるのですが、東京などでは「袖触れ合うも多生の縁」とはいかないようです*1。下町と言われる界隈でもわりとそうなので、江戸情緒は完全に死んだと言ってもいいでしょう*2

*1:金沢の片町などでは、袂がぶつかっても何も言われませんが、東京・大阪など都会ほど苦い顔をされたり絡まれたりすることもあるので注意しましょう。

*2:江戸情緒、という言葉がキライなのもそういった理由があります。完全に死んでしまった物をありがたがるのは正常な精神状態とは言い難いでしょう。反って、最近北國新聞が押し出している「金沢仕草」という言葉には説得力と愛着があります。