火鉢は優れもの

この時期は生酒が本当に美味しいのですが、さすがに毎日冷や酒を飲んでいるのも飽きてきます。というわけで、今日は池月の本醸造を燗して飲んでいます。池月の本醸造は燗上がりの素晴らしいお酒で、一升2千円程度ですが、上手に燗すれば3千円、4千円の酒に比肩する味わいを生み出します。
ところで、みなさんは普段どのように酒を燗しているでしょうか。鍋で直火は論外として、電子レンジで、という方は結構多いのではないでしょうか。
しかし、マイクロ波で物を温める電子レンジは、箱の中で電磁波の定在波が立ち、温まりやすいところと温まりにくいところが出来てしまいます。また、水とアルコール自体がマイクロ波吸収体ですから、マイクロ波が容器の中まで浸透せず、どうしても温度にムラが出来てしまいます。これではせっかくの日本酒が台無しです。
私は、酒は専ら湯せんで燗しています。それも、この時期は火鉢に鉄瓶で湯を沸かし、そのお湯で湯せんしています。火鉢を使い始めたのは2年前からですが、この火鉢が実に優れものなのです。
私の使っている火鉢は適当な木板と銅板で自作した一辺30cm程度の角火鉢で、見た目は素晴らしくみすぼらしいです。まあ、貧乏学生の急拵えなので、仕方がないと思っています。鉄瓶は、金沢市内の古道具屋で買った、一万円程度の鉄瓶です。昭和初期の、おそらく職人の手による素晴らしい鉄瓶です。水も2.5リットルほど入ります。この鉄瓶を古道具屋で買ったときは、正直高い買い物をしてしまった、と後悔したのですが、一度使ってみて「これは一生物になる」と確信しました。それほどに使い勝手の良い鉄瓶です。ちなみに、年代の割に安いのは二カ所ほど穴を補修した跡があるためです。ただ、普段使いには全く気になりません。
私はいつも八時過ぎに帰宅するのですが、帰宅するとまず炭を熾します。炭は国産のクヌギ炭と備長炭で、煙も煤も全く出ない高級品を使っています。高級品とは言っても、灯油ストーブよりも燃料費は安いです。
私の部屋にはストーブもエアコンもありませんが、火鉢に炭を入れて30分もすればほのかに部屋が暖まってきます。部屋が暖まってきたら水をたっぷり入れた鉄瓶を五徳に置き、銭湯に行きます(私は風呂無しのおんぼろアパートに住んでいます)。ゆっくりと風呂につかり帰ってくると、良いあんばいにお湯が出来ているので、炬燵に当たりながら湯せんした燗酒を飲みます。
この、火鉢の横で和服を着て、雪が外界の音を消し去る北陸の夜、静かに燗酒を飲む。という演歌的情景が日本酒をさらに美味しく感じさせてくれるのです。今も、池月のぬる燗を飲みながらこの文章を書いています。つまみは火鉢で焼いた餅とスルメの干物です。
また、寝る前に鉄瓶のお湯は捨てずに湯たんぽに入れます。この湯たんぽのお湯は、朝にはぬるま湯になっていますから、次の日に顔を洗ったり水仕事などに使います。
このように、火鉢(と鉄瓶)はとても便利で、そしてエコでもあります。みなさんも使ってみてはいかがでしょうか。

あと、今日は緑の片貝木綿にモスリンの襦袢、半襟は水色、袴は焦げ茶の木綿袴です。