小林プロが2月に解散していたことを今さら知る・・・

 後輩とのチャットで知った。
 今年の2月をもって小林プロは解散。小林七郎氏はフリーとしてアニメの現場の一線からは少し距離を置くそうな。79歳という年齢を考えれば、限りなく引退に近い、ということなのかもしれない。数少ない、「老い」や「枯れ」を感じさせない巨匠だっただけに、本当にショックだ。

 個人的に、小林七郎は最も好きな「空」を描く美術監督だ。意外と気付いている人は少ないけれど、日本のアニメというのは、他メディアの映像作品では考えられないほど「空」を映す。何せ、ちょっとした日常シーンでも、カメラがキャラから外れて、ちょっと上にパンして空を映してからカットを切り替えることがあるくらいだ。
 この「徹底した空の描写」こそがアニメと他メディアとの決定的な違いであり、どのような空を描くか、というのが作品の個性につながる(と個人的には思っている)。

 そして、個人的なアニメ史を思い返したときに、小林七郎の描く空が次々と頭を過ぎる。
 ガンバの冒険の第1話、海を目指すガンバ達が見上げる東京の不気味な空。そして海に出たあとは、それと対称的な大海原と大空がガンバと視聴者を待っている。波の描写ももの凄く大好き。あしたのジョー2後期OPの真っ赤な夕焼け。はじめ人間ギャートルズのどこまでも続く雲。少女革命ウテナ空中庭園。風神物語で屋上から見上げる空。宝島で帆を揺らす海風。シムーンの引き込まれるような大空。のだめカンタービレのパリの空。
 背景だけで一つの作品、と言っても良いくらいの格調を持ちつつ、デフォルメされたキャラとも見事に融合している。ここ数年、綿密なロケハンを元にした写真みたいな背景が主流になりつつある。アニメ制作現場にコンピューターによるデジタル製作が当たり前のように普及し、最近はレイアウトに3Dのシステムを用いることも増えている。小林プロのように手描きのタッチが残った背景よりも、カッチリとした写真のような背景の方がいろいろと適しているのかもしれない。個人的にも、こういった傾向に違和感を覚えなくなってきているのも事実*1
 ただ、なんだか一つの時代が終わってしまったようで何とも寂しい。
 もっとも、小林七郎氏が亡くなったというわけではないし、完全に引退したわけでもない。今後何らかの形でアニメ業界に関わっていくだろうし、何よりも小林プロ出身のお弟子さん達がたくさん業界に残っている。あの空にまた出会える日もあるだろう。

*1:草薙による「おねがいティーチャー」「R.O.D.」あたりは、写真のような背景と萌え系の絵柄の組み合わせに居心地の悪さのような物を感じていた