コクリコ坂観た!大傑作だった!

コクリコ坂から」9/10点

 傑作。今のところ、今年のアニメ映画暫定第1位。

 舞台は1963年の横浜。
 コクリコ坂を登ったところにある下宿、コクリコ荘。そのコクリコ荘を切り盛りする高校生の少女・松崎海。海は、朝鮮戦争で亡くなった船乗りの父への想いから、毎朝信号旗を揚げる。
 そして、その信号旗に対して毎朝返礼旗を揚げ続ける少年・風間俊。
 同じ高校に通う二人は運命のような出会いをし、静かに想いを交わしていく。しかし、あるとき二人が異母兄弟なのではないか、という疑惑が浮かび上がり・・・。

 お話は、予告編で登場人物自身に言わせてしまっているように陳腐なメロドラマ風。ラストも、作画的な盛り上がりやちょっとした感動はあるものの、実に静か。しかし、そんなことではこの映画の価値は何ら減じない。
 この映画の価値は、1つはその画面そのもの。1963年の横浜を、アニメ的なデフォルメを効かせつつ、またノスタルジーもスパイス程度に抑え、きちんと監督のコントール可能な範囲のリアリティの元で再現している点。背景も含めて画面を全てコントロール下に置いているから、キャラだけが浮き上がることも無いし、背景に違和感や過剰なノスタルジーのようなイヤらしさ*1を感じることも無い。
 もう一つは、実に生活感と活力に満ちあふれた登場人物達。モブ含め、仕草や身につけているものなど、細部に非常に気を遣っているためもの凄く存在感があるんですよ。ひろさんとか、セリフは数えられるほどしか無いけれど、凄くキャラが立ってる。 カルチェラタンの面々も、名前すら出てこないけど、奇妙な愛着を感じる。彼らを眺めているだけでも、本当に退屈しない。映画を見終わる頃には、映画の登場人物になったような気分にすらなれる、こんな映画は本当に貴重だ。
 ゲド戦記の頃とは本当に別人。前作があまりにもアレだったために、足を運ぶことを躊躇している人がいたら、あの失敗は忘れてあげて欲しい。本当にオススメ。

以下、気付いたことをちらほら

 男性と女性の対比とその在り方、みたいなところが印象的な映画だった。女子寮のコクリコ荘と、男子学生の魔窟・カルチェラタンとか。
 カルチェラタンが象徴するのは高度成長の中急速に失われていく旧態依然とした父権や男根主義(極端なまでに父親不在な物語も、それを暗示してる)。ラストでカルチェラタンは存続が決定されるんだけど、実はかつてのカルチェラタンは既に失われている。物語前半で登場する正に魔窟としか言いようがない男どもの秘密基地は失われ、女子の手によって秩序ある文化遺産へと変貌してしまっている。かつての男どもの楽園は失われ、新たな時代と文化は男女が手を取り合って創っていく、そんなメッセージを感じた。
 似たような点では、ラストの港まで向かうシーン。数少ないアクション性溢れるシーンなんだけど、二人が一緒に並んで走っていくのが印象的。これ、もし宮崎駿だったら間違いなく俊が海の手を引っ張るか自転車の二人乗りかにしてしまったと思う。男が女をリードする、あるいはその逆でもなく、新しい明日に向かって、男女が同じ方向を向いて二人並んで走っていく。そんな男女の有り様が実に美しい映画だった。

 後は作画の話。おそらく、セーラー服のプリーツスカートをここまで徹底的に描いたアニメは空前絶後。今後も現れないと思う。あれだけの数の女生徒の、しかも膝下丈のプリーツスカートを全て手書きで滑らかに動かすなんて、はっきり言って正気の沙汰では無い。スカートの裾を眺めているだけでも、1,700円の価値がある映画。

*1:三丁目の夕日的なアレね。あの映画、本当に大嫌いなんですよ。