個人的にはシリーズ最高傑作(DX除く)

映画ハートキャッチプリキュア!

 既に3回観てきました。3回ともシネマサンシャインかほく。七尾からは最寄りの映画館なんだけど、なんとなくあまり使っていない映画館です。ポイント還元率が悪いのと、どうも石川県のシネコンでは一番集客が悪いようで、少人数で寂しく映画を観る羽目になることが多いんですよね。やっぱり映画はそこそこ混んだ中で、みんなで観た方が絶対に面白い。
 というわけで、金土日と3日で3回観たのですが、1回目(金曜の夜七時から)はなんと私一人での鑑賞でした。私は年間50から100回、今まで30年の人生で1000回以上映画館に足を運んだはずですが、正真正銘ただ一人での鑑賞はおそらく5回と無いでしょう。土曜は半分くらい、日曜はさすがに満員に近い客入りでした。ちなみに、三回も観たのにライトは貰えませんでした。当たり前ですが。三回とも同じ係員さんで、三回とも「貰えないのでしょうか・・・」とすまなさそうに申し出ましたが、三回とも貰えませんでした・・・。係員さんは、私の100倍くらい気まずそうでした。わがまま言ってどうもすいませんでした。この場を借りて謝罪いたします。ただし、4回目5回目も申し出ると思います。大人料金を払っているのですから!(ここだけは強気)
 映画の内容ですが、傑作でした。シリーズ最高傑作といっても言い過ぎではないでしょう。以下、内容に触れるので畳みます。

 今までで一番「映画」になっていたと思います。
 有名人のカメオ出演もなければ、ミラクルライト関連も最低限の演出。削れるものは全て削った、という感じの非常に締まった映画でした。
 ストーリーは、まずタイトルに偽りあり(笑)。36話のような華やかなお祭りを予想していたら、なんと出てきたものは「巌窟王」と「家なき子(出崎版)」を足して2で割ったようなお話。1回目は、正直幼女にこのお話が理解できるのか不安でした。でもそれは杞憂で、2回目3回目に観に行ったときは、子供達もかなり楽しそうに観ていました。そして、それ以上に親御さん達(おそらく、世代的には私と同じくらい)が「面白かったねー!」と満足そうに映画館を出て行ました。今作は、間違いなく大人でも楽しめる造りになっていたと断言して良いでしょう。クレヨンしんちゃんで言うところのオトナ帝国、おジャ魔女どれみではカエル石的な作品、といえば分かり易いでしょうか。
 今作は主に3つの視点から物語が紡がれます。このことが既に70分しかないプリキュア映画では異例中の異例。
 一つは今回のゲストキャラにして主人公のオリヴィエ。そしてそのオリヴィエの養父であるサラマンダー男爵。そして、我らがプリキュア
 オリヴィエは子供視点、サラマンダーは大人視点で物語に関わります。オリヴィエはサラマンダー以外身内がおらず、さらにサラマンダーに家族的な親愛の情を持っています。サラマンダーはオリヴィエとずっと共に旅をしてきましたが、やはり大人なので、いろいろと複雑な思いを胸に抱えています。まず、世界に対して絶望している。自分を見放した世界、具体的には追放した砂漠王(テレビ版のデューンと同一人物かどうかは不明)とその自分を400年にもわたり封印した伝説の初代プリキュアに対するすさまじい怨念。そして、砂漠の使徒である自分と狼男であるオリヴィエをおそらく受け入れないであろう現代社会に対する恐怖と絶望。とにかく世界に対して「閉じて」しまっています。
 二人の間に疑似親子的関係が成立しているのは明白なのですが、「世界」を滅ぼすかどうかで対立します。サラマンダーは自分を受け入れない(かもしれない)世界に絶望し滅ぼそうとします。それに対し、オリヴィエは「世界は僕らを受け入れないかもしれないけど、僕の世界にはサラマンダーがいるよ」と世界を滅ぼすことに待ったをかけます。そう、実はこの時オリヴィエの世界も二人で閉じてしまっているんですよね。この親子、方向性は真逆でも、世界や社会に対して閉じこもってしまっている、という点では共通の問題を抱えているのです。
 そして三つ目の視点である、つぼみたち四人のプリキュア。今回は、プリキュアは脇役です。しかも、シーンごとにその役割を変えます。この辺が、今回の映画をわかりにくくしている一因かも。
 まず一つ目の役割は、なんと言ってもオリヴィエの「母親」的役割を背負っている点。作中ではえりかに「お姉さんみたい」と言われますが、つぼみは明らかに母性の象徴として描かれます。オリヴィエをしっかりと抱きしめ、最後はサラマンダーをオーケストラの力で抱き留めて浄化します。1回目の視聴は観客が私一人だけで、なおかつライトを貰えなかったために、くだんのシーンで「キュアブロッサムはみんなのママだもん」とセーラームーンRの名台詞を思いださずにはいられなかった。
 お姉さんの役割をしっかりと務めたのはむしろえりかといつきでしょう。つぼみと出会って「チェンジ」したことでコンプレックスを活力に変えたえりかと、自分らしさを取り戻したいつき。「チェンジ」した先達として、オリヴィエを導きます。
 ゆりさんは、「残された娘」として、サラマンダーにオリヴィエと向き合うよう告げます。自分たち家族を捨てた父親(おそらくは当代砂漠の使徒サバーク)と、初代砂漠の使徒であるサラマンダーを重ねてのことでしょう。ガルニエでの戦闘シーン、回想シーンはアニメ史に残る名シーンでした。
 つまり、今回プリキュアの四人はそれぞれ「母親」「姉」「娘」の視点で物語に参加します。つまり、サラマンダーとオリヴィエの「家族」として彼らの人間性・関係性を補完する役割を負っているわけです。この辺の複雑な人間関係をエンターテイメント性を崩さずに、実に自然な脚本でわずか70分に凝縮している、これだけで栗山緑さんはアカデミー賞級の活躍です。少なくとも私の中では脚本家殿堂入り。そうそう、今回はフランスが舞台と言うことで、ナージャ以来7年ぶりにK.Y.グリーン氏の復帰を期待していたのですがかなわなかったようです。栗山緑さんに負けずとも劣らない名脚本家だっただけに残念です(笑)。
 また、今回の映画では人間関係が「つぼみ達→オリヴィエ」「ゆり→サラマンダー」という風に一方的にしかも2路線展開します。オリヴィエとサラマンダーが親子的関係を確固たるものとして再構築して、さらには、もしかしたらつぼみたちみたいに世界は自分たちを受け入れてくれるかもしれない、と「チェンジ」することが映画の大団円に繋がるわけですが、このことにプリキュアは直接関わってないんですよね。つぼみたち中学生トリオに至っては、サラマンダーとオリヴィエの疑似親子関係すら把握してなさそう。そういったプライベートな問題は、あくまで自己解決するしかなくて、プリキュアが出来るのはその切っ掛けを与えるところまで。このへんの、各自の心の問題は各自で解決するしかない(もっと言ってしまえば「チェンジ」するのにプリキュアである必要はないと言うこと。このへんの「魔法少女の不必要性」はどれみ以降東映がずっとやってきていることでもある)、というのはテレビ版から一貫している部分です。子供映画として非常に深い内容を展開しつつ、テレビ版の総括すらやってしまう、というテレビアニメの劇場版として理想的な造りと言っていいでしょう。
 そして、今回サラマンダーとオリヴィエがきちんと親子的関係を再構築することが出来た、というのは残り1クールでゆりと父親の関係に何らかの決着が着く、ということへの伏線だったりもするんじゃなかろうか、というようなことを考えました。
 とにかく、非常に練られた丁寧な映画でした。たぶん、あと2回は観に行きますし、絶対にBlu-rayDVDも買います。本当に面白い、考えさせられる映画でした。大人一人で観に行っても充分に面白いです。オススメです。