千年の歴史を背負うという幸福

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

 発売日に購入。
 実家に帰った際に東京で一度見た限りで、結局北陸での上映はなかった。
 この映画で本当に良いなあ、と思うのは子供達が郷土の千年をこえる歴史を誇らしく背負っている点。
 新子が済む周防は千年前は国府が置かれ、その遺構がそこかしこに残っている。そして、新子はそのことを自慢げに転校生の貴伊子に語る。
 この郷土の歴史に対する浪漫や誇りを語るシーンで、私は自分の故郷を思わずにはいられなかった。
 私の生まれ故郷の岩舟町には、その中央に岩船山というシンボルがそびえ立っている。岩舟町は石器時代は海の近くで、貝塚や竪穴式住居が多く発掘されている。縄文・弥生時代の遺跡もあって畑を掘れば土器が出てくるような土地だ。船の形をした岩船山は、古代から山岳信仰の対象となっていたという。奈良時代には高勝寺という寺が岩船山につくられ、大いに栄えたという。高勝寺は江戸時代には岩船地蔵尊の本山として多くの信仰を集めた。江戸末期以降は岩船山は岩船石を産出し、戦前は岩舟町(当時は岩舟村)の近代化、戦後は復興と発展の礎となった。
 岩舟町民にとって、岩船山は畏敬の念を感じずにいられない霊山であり、岩舟の歴史を象徴する山だ。
 岩舟町の子供は、必ず小学校の時に「岩舟町の歴史」という副読本を使って、社会の時間に郷土の歴史を学ぶ*1。私の曾祖父はよく昔の岩舟町の話をしてくれたし、私自身も数千年前、もしかしたら一万年前まで自分達のルーツをたどれるかもしれない、ということを誇らしく感じた。
 なんだかこの映画を観ていると、そんな故郷のことを痛切に思いだしてしまう。
 このフィルムの中に描かれる周防にも、私の故郷にも、完全な自然は無い。そして、完全に人工的なものもない。そこには人間達が数千年かけて自然と相談しながら積み上げてきた生活がある。そのことを再確認させてくれる素晴らしい映画だ。
 この素晴らしい映画を作ったのはナウシカの助監督や魔女の宅急便の監督補を務めた片淵須直。「アンダルシアの夏」の高坂希太郎や「亡念のザムド」の宮地昌幸もそうだけど、こういう監督を任せられる人材がジブリは一人でも欲しいだろうに、何で手放してしまうのか・・・。

*1:思えば、合併して佐野市になってしまったらこの副読本を使っての郷土史教育も無くなってしまうのだろう。