実は珍しい、リアル側に軸足を残した女子サッカー漫画

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 主人公・恩田希は男子サッカー部に所属する女子中学生。小学生の頃は学童サッカーの中心選手だったが、周囲の男子が成長期を迎え、中学では控えに回っている。テクニックでは男子に混じってもトップクラスだが、フィジカルの問題から試合に出られない。そんな中でサッカーを続ける希は、秋の新人戦に出場するために練習に励むのだが・・・

 私は小中高と11年間剣道をしていた。剣道は小学校までは男女一緒で中学からは男女別になるんだけど、小学校の時に県内にもの凄く強い女の子がいた。試合で当たったこともあるけれど、文字通り手も足も出ずに負けた。その子は中学で個人戦全中ベスト4まで勝ち進み、まさに県のスター選手になった。その女子選手とは偶然高校の剣道部で一緒に練習する機会*1があった。時々男女混合で試合形式の練習をしたんだけど、その時の結果は男子である私の圧勝だった。何が言いたいかというと、男女のフィジカルの差はそれほど残酷だと言うこと。下で競技スポーツを男女混合で行うのはスポーツとして不健全な状態、と書いたけどこれはまさにそういうことだ。全国クラスの女子選手ですら、関東大会にすら進めなかったチームの準レギュラーにかなわない。それが現実だ。日本の場合大抵のスポーツで女子が中学高校大学と競技を続けるのはそう難しくなく、中にはバレーボールやフィギュアスケートなど女子の扱いが男子よりも大きい物もある。しかし、野球とサッカーという二大メジャースポーツにおいて、なぜか女子の受け皿がほとんど無い。これは、本来なら各協会が本腰を入れて取り組むべき問題なんだけど、現状ではほぼ手つかずのまま放置されてしまっている*2
 野球マンガ・小説だと、そもそも現実世界で女子選手がほとんどいない、フィジカルの重要性が(ぱっと見だと)わかりにくい、etc.などの理由によってある程度のリアルさを保ちながら女子の戦いを描くことが出来るが、他のスポーツ、それもサッカーのような体が直接ぶつかり合うようなスポーツだと非常に難しい。その証拠に、女子サッカー漫画というのはかなり少なくて、あっても文字通り「女子サッカーリーグ」の漫画だったり、男子顔負けの超人的な女の子が大活躍するような内容だったりすることが多い。
 それだけに、この「さよならフットボール」を読んだ時は衝撃だった。主人公の恩田希がどんな選手で、どんな状況にあるのか、というのが非常に丁寧に描かれている。希は中学二年の新人戦を、「男子に混じってプレーできる最後のチャンス」と考えている。これからは男子のフィジカル差は開く一方で、この機会を逃したら永遠に男子に混じってプレイすることが出来なることは痛いほど分かっている。さらには、その1回戦の相手がかつてのチームメイトで幼馴染みであることを知ったのもあり、その新人戦に出ることを切望する。この辺の「試合に出ることが目標」というのが実にリアルだ。
 この漫画が素晴らしいのは、希がサッカーが好きなただの女の子である、という点につきると思う。別に超人的なテクニックがあるわけではない、ただの女の子。それ故に、フィジカルの差、性差というハンディキャップを乗り越えるために誰よりも練習に励むが、やはり女子というだけで周りの男子達にかなわない。それでも、周囲には女子サッカーチームが無いし、何よりも今のチームでサッカーを続けたい、そして試合に出たいと考え努力を続ける希。そんな希のひたむきさが、実に希を魅力的に見せてくれる。こういった「リアル側」に軸足を置いた女子サッカー漫画って、実はあまり前例がないんじゃないだろうか。
 1巻のラストではアッと驚く展開になるんだけど、2巻の予告を見る限りではかなり盛り上がりそうなので、この物語の着地点をどこに持っていくのか、今から楽しみだ。
 
 ちょっと気になったんだけど、中学サッカーって女子はそもそも試合には出られるの?確か中学軟式野球は女子も出られるんだけど、サッカーはどうなんだろう。

*1:栃木県の普通科はほとんど男女別学なんだけど、当時の栃木高校と栃木女子高校は施設の関係で週に何回か一緒に練習していた

*2:まだワールドカップとオリンピックがあって、それなりに機能している協会がある女子サッカーは露出が多くて恵まれているとは思うけど、女子野球はねえ、、、