浅倉久志 死去

 本当は、二月中にこの訃報について触れたかったんだけど、なかなか思いがまとまらず(そして、今もどう書いたらいいか分からない)触れる事が出来なかった。
 ここ数年SF界は巨匠の訃報が相次いでいて、まあSFというジャンルが日本である程度認知されて半世紀、そういう時期・時代になりつつあるということなんだろう。
 そして、そんなSFにおいて、おそらく日本最大の巨匠・功労者はこの人なんじゃないだろうか。SFに限らず日本文学の歴史に大きな足跡を残した翻訳家だと思う。
 個人的には、なんといってもこの人はディックとヴォネガットの人、という印象が強い。ハヤカワから出ているものはほとんど全て、といっていいくらい浅倉久志訳だ。中学から高校にかけてこの二人の作家ははしかに罹ったように読みあさった。他にも、ギブスン(一部)や、ポール・アンダースンの「タウ・ゼロ」、ティプトリーの「たった一つの冴えたやり方」、コードウエイナー・スミスの「ノーストリリア」、などなど。あの頃はSFの読み始めで、浅倉久志訳にハズレ無し、という感じすらしていた。
 バラードの乾いた感じ、ディックの暗く冷たいあの奇妙さ、ヴォネガットの軽妙な暖かさ、全てがどの程度原文を反映してのものなのかは知らないけれど、どれもこれも貴重なSF体験・言語体験でした。
 数々の宝物をありがとうございました。謹んでご冥福をお祈りします。