いちおうちゃんとした感想も書いておこう

Steins;Gate (シュタインズ・ゲート) (通常版) - Xbox360

Steins;Gate (シュタインズ・ゲート) (通常版) - Xbox360

 主人公の岡部倫太郎は都内の大学に通う理系学生(19歳)。秋葉原で幼馴染みの椎名まゆり、同じ大学に通う親友でメカとコンピューターの天才・橋田至とともに、「未来ガジェット研究所」なる科学発明サークルを主宰している。
 そして、ある日なんと岡部と橋田の二人は、偶然タイムマシンを発明してしまう。それは電子レンジと携帯電話を組み合わせたもので、元々は電話で電子レンジを遠隔操作する、という他愛もない物だった。しかし、この「電話レンジ(仮)」を経由してメールを送信すると、過去に18文字だけメールを送る事が出来るのである。
 時を同じくして、ネット上にタイムトラベラーを自称するジョン・タイターなる人物が現れ、2034年にSERN(モデルはCERN)がタイムマシンを発明し、SERNの黒幕である300人委員会によってディストピアが築かれている、と主張する。このジョン・タイターの主張に興味を持った岡部は橋田と共にSERNのコンピューターにハッキングを仕掛け、なんとタイターの主張が概ね正しい事を知る。
 そして、ひょんなことから強引にプロジェクトに引っ張り込んだ天才少女・牧瀬紅莉栖とともに電話レンジを改良、タイムリープ・マシンの開発に成功する。しかし、そのことが彼らに重大な事件を及ぼしてしまう・・・。

 何が良かったか、良い部分を上げたらきりがないんだけど、まずはキャラクターが良かった。中二病全開の理系大学生・岡部倫太郎の個性がずば抜けていて、しかしそれでもきちんと喜怒哀楽を表に出すナイスガイで、実に感情移入しやすいキャラクターだった。シナリオ中盤以降の彼の焦り、不安、怒り、悲しみ、そして愛、喜びなどここまで主人公に感情移入して読書したのは実に久しぶりで日常生活に支障が出るほどだった。
 主人公の右腕、橋田至も素晴らしいナイスガイだ。見た目も中身も欲望そのままに行動するデブオタだが、熱い友情を持つコンピューターの天才。いや、橋田至の天才っぷりは全編通してちょっと反則気味ですらある。タイムマシンを作ってしまったり、SERNにハッキングを仕掛けてしかも成功してしまったり、とにかく規格外の男である。
 メインヒロイン、クリスティーナこと牧瀬紅莉栖。2009年に、テンプレ的ツンデレキャラをパロディやギャグでなく登場させたシナリオライターの勇気も凄いけど、なにか新鮮な感じを与えてくれたその筆力も凄いと思った。飛び級アメリカの大学を卒業し、18歳でサイエンス誌に論文が載った天才少女。専門は脳科学と物理学。主人公の大学に特別講師として招かれ講演を行った事から主人公と知り合いになる。話し方や考え方、行動原理の一つ一つがいかにも「理系学生」っぽくて、もしかしたら序盤一番感情移入したキャラかも。この物語の「科学」の部分を体現したキャラ。
 他のサブキャラの面々も本当に魅力的で、できればいつまでも彼らの物語を読んでいたかった。
 あと、SF的な小道具としては、二つのタイムマシンが登場するんだけど、その使い方が実に上手かった。その二つのタイムマシンはそれぞれ限定的な性能しかなくて、その制限が物語を実に盛り上げてくれる。
 まず橋田至の製作した「電話レンジ(仮)」。これは、過去にわずか18文字だけ「情報」を送る事が出来る。ホーガンの「未来からのホットライン」に登場するあれみたいな奴ね。原理も概ね似たようなもの。その情報はEメールによって送られるので、ポケベルやパソコン通信が普及し始める90年代初頭まで遡る事が出来る。
 そして、牧瀬紅莉栖が電話レンジを改良して作った「タイムリープ・マシン」。これは、脳の情報を圧縮して過去の自分に送る事で、(過去の自分にとって)未来の記憶を過去の自分に送り込む事が出来る。ただし一度に跳べる時間は48時間で、発明に成功する8月13日の2日前、11日までしか遡る事が出来ない。
 岡部倫太郎はこの二つのタイムマシンを使って、とある事件を回避するために奔走するんだけど、その性能が限定的であるがために発生する様々な事件やその結末が、丁寧に張り巡らされている複線を一つ一つ回収していくのが読んでいて本当に楽しかった。このタイムマシンの使い方は近年の時間SFの中でも白眉と言っても過言ではないと思う。
(以下ネタバラシを含むため白黒反転)
 ただ、中盤から終盤にかけてのこのタイムマシンを巡る物語が非常に良くできていたばっかりに、できればこの二台のタイムマシンだけで物語を解決して欲しかった、という不満も残ってしまった。未来の自分たちが完成させた完璧なタイムマシンでジョン・タイター(橋田至の娘)がやってきて、そのタイムマシンでタイムリープではなくタイムトラベルを行って事件解決、というのはなんとなく反則気味な気がする。というか、ちょっと拍子抜けすらしてしまった。ただ、確かに100%ハッピーエンドにするにはああするしかないのかなあ、という思いもあって、難しいところ。
  ただ、あの世界線の彼らの物語も読んでみたかったかも。2025年に自分の死が訪れる事を知りつつも、タイムマシンの開発を止めなかった岡部。第三次世界大戦が回避された瞬間タイムパラドックスによって娘が消えてしまう危険を知りながらあえて過去に送り出した橋田至。彼らの「想い」を読んでみたかった。

 それにしても「愛すべき物語」だった。20代も終盤、三十路が見えてきたこの歳になってもまだ、物語にこれだけ心を動かされる事がある、というのが実に嬉しかった。XBox360を持っているなら本当にお勧めです。