今月最初の読了本

赤い竪琴 (創元推理文庫)

赤い竪琴 (創元推理文庫)

 なんと今月最初の読了本。
 かつてはライトノベル系レーベルで少女小説家として活躍し、その後ホラー作家に転身を遂げ、現在手は多種多様なジャンルにその幅を広げる作者の、2005年に刊行された小説の文庫版。津原泰水ほど多彩なジャンルを、かつ完成度高く書き続ける作家というのはかなり希有な存在だと思う。
 赤い竪琴は、(少女小説家時代の作品を除けば)この作者としては珍しく普通の恋愛小説。とある30代の女性が一人の楽器制作者と出会い、プラトニックな恋愛を通して心の交流を深め、そしてそれぞれの人生を見つめ直す、というもの。
 こう文章にしてしまうとあまりにもあっけないけれど、読んだ後は暖かい満足感に包まれた。なんだろう、津原泰水の小説にはなんとなくだけれど、過不足がないのだ。いつも、適度に満腹の、一番精神的状態が良いところでラストを迎える。もっと読みたかったなあ、とも、こりゃあ詰め込みすぎだよ、と思う事もない。その辺は計算ずくなのか、天性の物なのかは分からないけれど、私にとってある意味最も信頼の置ける作家の一人である事は間違いない。