至高の居酒屋漫画

センセイの鞄 1 (アクションコミックス)

センセイの鞄 1 (アクションコミックス)

 原作は既読。
 三十路そこそこの独身OL、ツキコさんが居酒屋で偶然かつての恩師(というほどでの間柄でもないが)に再会し、居酒屋で何度も酒を飲むうちに、恋仲といえなくもない、微妙な疑似親子的とも言える奇妙な関係性を築いていってやがて・・・。という話。大人の恋愛小説、と呼ぶにはいささか浮世離れした奇妙な読後感を得たのを今でも覚えている。そして、なによりも小説中で気になったのは食い物の旨そうな描写だった。出てくる摘みから、ビールや日本酒の飲み方まで、登場人物たちの個性を滲ませていていたのを思い出す。
 そんな川上弘美の居酒屋小説が、なんとあの「孤独のグルメ」の谷口ジローによってコミカライズ。アクション侮り難し・・・。
 いやー、しかし素晴らしいマンガですよ、これ。読んでいると無性に日本酒が飲みたくなってくる。とにかく食べ物を食べる描写が素晴らしい。いや、食べ物を食べるシーンよりも、「注文するシーン」がいいんですよ。特に好きなのは56〜57ページの塩ウニをたのむシーン。最初は鍋に興味があるようなそぶりを見せて、店主に「じゃ。鍋いきますか」とまで言わせて、すっと「いや。塩ウニにします」と塩ウニをたのむセンセイ。このしてやったりな顔がね、いいんですよ。私も居酒屋で良くやりますよ。私はいつも最初にたのむメニューが大抵決まっているんですが、すっと店に入って、張り紙やメニューにわざとらしく目を走らせる。そして、店主が何か言いかけた瞬間、「いや、いつもので」みたいに注文する時が。何も言われてないのに、「いや、」と前置きしてしまうあの一瞬。あの奇妙な空気の攻防がね、好きなんですよ。
 この奇妙に浮世離れした奇妙な登場人物による奇妙な恋愛物語、本当におすすめです。

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)