すぐそこにある近未来
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/08/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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背負って使用する、個人用ヘリコプター。ネコの首輪につけられるような、超軽量の車載カメラ。介護用のロボットも、ホームヘルパー用のロボットも、少し先の時代には当たり前になっているのかも。あなたなら、楽しい使い方を思いつけますか?テクノロジーと人間の調和を、優しくも理知的に紡ぎ上げた、注目の俊英による最新傑作集。
日本のSF小説はどうも「科学技術小説」が育ちにくい土壌なのか、クラークやハインラインの初期短中編みたいな『こんな技術や商品があったら世界がどうなるか?」というようなSF小説が伝統的に少ない。
そんな中で、日本で数少ない科学技術小説の旗手・小川一水の最新短篇集。
相変わらず傑作だった!その性善的な登場人物とストーリーに、「人間が書けてない」とか「ご都合主義」といったことを言う読者が多いのは知ってるけど、それがどうした。以下短編ごとの感想。
「煙突の上にハイヒール」
表題作。初心者でも簡単に運転できる小型ヘリコプターが認可・実用化された近未来が舞台。一人のOLがそのヘリコプターを衝動買いしたことからライフスタイルが少しずつ変化していく。
架空の商品や技術をまさに本当にあるかのように書いてみせる手腕は相変わらず一級品。私もこのヘリコプターが欲しくなった。
「カムキャット アドベンチャー」
猫の首輪に付けた超小型カメラによってわき起こるちょっとした騒動と広がる人間関係。「いい話」なんだけど、今回の中では一番印象が薄かったかな。
「イヴのオープンカフェ」
クリスマスイヴに、恋人に振られた女性がヘルパー用アンドロイドと出会う。ちょっとしたミステリー仕立てになっていて、最後は少しほろりともさせられる。梶尾真治を彷彿とさせるような佳作。
「おれたちのピュグマリオン」
今回の中では一番のお気に入り。とある工学マニアがメイドロボットを実用化し、それが世界を変えていく様が丁寧に描かれる。最後の、どうしてメイドロボットを作ったのか、という動機の部分で衝撃的なオチが用意されていたのも○。
「白鳥熱の朝に」
インフルエンザ・パンデミックの去った後、静かに復興していく日本が舞台。これだけは科学技術小説ではなくて、短篇集の中では浮いてるかも。でも、これも大傑作。
このご時世に、新型インフルエンザを題材にこんなハートウォーミングな物語を書いてしまう小川一水の人柄が伺える。ラストシーンの美しさが素晴らしい。