三浦しをん久々の傑作。自分の立ち位置を少し考えた

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

 七尾市の図書館で借りました。
 七尾市の図書館は素晴らしい!人口に対する蔵書数(七万人に対して約五十万冊!)が非常に多いので、ベストセラーでも入荷後大して待たずに借りられる。住所は金沢にも残してあるので、マイナーな本(主に専門書・海外文学など)は金沢市の図書館で、普段読む本は七尾市図書館で借りるようにしているのですが、本当に便利ですよ。
 主人公の勇気は高校卒業後、林業研修生として神去村(モデルは三重県の尾鷲〜熊野周辺)の材木会社に放り込まれる。当初は逃げ出す事しか考えていなかったが、次第に仕事にも慣れ、村にも溶け込んでいく・・・。
 タイトルにある「なあなあ」というのは神去村の方言で、「ゆっくりと」「流れに任せて」などなど複雑なニュアンスを含む言葉で、言葉と言葉を継ぐための言葉としても使われる。
 私がこの物語を読む上で幸運だったのは、七尾にはこの「なあなあ」とほぼ同じ意味の方言があることだ。「やわやわ」というのがその言葉で、例えば仕事の手順にとまどっておろおろしていると「やわやわせんがいね」とか言われる。これは、「落ち着いて」とか、「まあのんびりと」とか、そういった複雑なニュアンスを持つ言葉で、やっぱり会話のテンポを取るためのみに使われたりもする。最初はこの「やわやわ」のニュアンスに戸惑ったりもしたのだが、今では「やわやわ」こそが七尾の漁村を象徴する一つの言葉だと思っている。
 しかしまあ、本当に面白い小説だった。
 一次産業に飛び込んだ若者の戸惑い、あまりにも個性的な村の人々、一次産業の豊かさと厳しさ。はっきり言ってなんともリアル。そして、ドラマチック。
 あまりにも素晴らしかったので、家族にも「海と山の違いはあるが、概ねこういう生活をしている」と薦めてしまったくらいだ。
 できれば直木賞は「まほろ駅前多田便利軒」ではなくて本書で受賞して欲しかった。
 しかしまあ、正直なところ自分のこの漁村での立場はどういうものなんだろう?突然やってきた元高学歴ワーキングプア予備軍で、一年中和服。車も持たず、自転車で15キロも遠くの七尾駅前までしょっちゅう出かけていく。まだ村に溶け込んでいるとは言えないと思うので、再来週の秋祭りが少々楽しみでもある。