「くふ」の快楽

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

 一時期、「終わりどころを見失ったシリーズ物」として、読むのを止めていた時期もあるんだけど、最近復帰。今となっては、経済小説としての繊細さやダイナミックさはおろか、もう物語の着地点すら期待するのはよして、あくまで二人の珍道中物として寅さん感覚で楽しんでいる。それこそ、物語が決着することなく、いつまでも続いて欲しいすら思っている。
 というわけで、シリーズ物の最新刊、しかもこれといった急展開のない内容と言うことで語ることもほとんど無いのだけれど一つだけ。
 私がこの小説で一番快楽を感じる瞬間。それは、ヒロイン・ホロの「くふ」という笑い声だ。この二文字に、悠久の時を過ごす狼神であると同時に小娘としての側面も持つ『ホロ』というキャラクターの複雑さが滲み出ていると言っても過言ではない。
「ククク」でもなければ「くふふ」でもなく「くふふふ」でもなく「ふふふ」でもない。あくまで「くふ」という表記にした作者の言語センスと音感には素直に感謝したい。この「くふ」という笑い声を小説中に見つけた瞬間、私の中で理想とするあの『くふ』が鳴り響くのだが、残念ながらアニメでは再現されることがなかった。*1大好きな原作を大好きなアニメーター(黒田和也、二期は小林利允に変更)がアニメ化と言うことで、一度はDVD購入まで考えたが、この「くふ」のイメージの違いから、三話以降見るのすら止めてしまった。
 とりとめがなくなってしまったが、3巻くらいまでは間違いなくおすすめだし、3巻まで読んでホロのキャラクターに惚れ込んだ人は私同様あと何十冊読んでも飽きないと思うので、1巻くらいは本屋で立ち読みすることをおすすめします。買ってまで読む本かどうかは、正直微妙だと思うけど。

*1:小清水亜美の演技はホロのイメージを決して壊すことのない名演であったとは思うが。