みんなも観に行け!

精神

 シネモンドで鑑賞。公開2週目というのに、さすが話題作、8割方席が埋まっていた。先週のヱヴァでも思ったけど、やっぱり満員の映画館で観る映画はそれだけで面白い。だって、百人単位の人が、真っ暗闇の中で同じ映像作品と出会う、それだけで『映画的』というやつじゃあないですか。
 監督は「選挙」で一躍有名になった想田和弘。岡山にある「こらーる岡山」という精神科診療所にカメラを向け、なんとモザイク無しで患者たちと彼らを取り巻く日本の現状を映像的に解体していく。
 観る前は、あくまで社会的な映画で、正直娯楽性は余り期待していなかったんだけど、見てビックリ。もの凄く面白い映画で、1分たりともスクリーンから目を離すことが出来なかった。ただ、何が面白かったのか今でも文字にすることが出来ない。
 多分、彼らを『個人』として認識して、その人生に興味を引きつけられたからなんだろう。これは監督自身もインタビューで各所で語っているけれど、モザイクを付けないことで彼らに「精神障害者」というレッテルを貼らずにこの映画を観ることが出来た。テロップやナレーションも無いので、最初はカメラに写っている人が患者なのか、ヘルパーなのか、ボランティアや家族などの支援者なのか全く分からない。ただ、観ていく上で少しずつ彼らの人間関係が明らかになり、そして画面に対している観客もそれに引きずり込まれていく。そして、彼らが抱えている問題(病気・生活保護・治療費・社会との関係)が身近なものとしてダイレクトに迫ってくるのだ。映画中にも盛んに触れられていた障害者自立支援法の問題点なども、なんとなく人ごとではないように思えてきた。観客にこうした当事者意識を与えただけでも、この映画は大成功と言える。
 ただ、映画としてはただの社会派映画では終わらず、そのラスト5分が凄い。なぜ直前のシーンで映画を閉めずに、この5分を付け加えたのか。それこそが監督がこの映画に込めたメッセージなのだが、このせいで観客は複雑な思いを胸に映画館を後にすることにもなる。是非そのテーマを受け止めて欲しい。
 また、(ネタバラシのために白黒反転)最後のスタッフロールに衝撃的なテロップが待っている。この数秒に満たないテロップのために、観客の心は一瞬凍り付き、登場した患者たちの顔、特に笑顔が頭から離れなくなる。つい10分前まで笑顔で会話し、もしかして鬱を克服したのかな、と思っていた人たちが撮影後自ら命を絶っていたことを知らされる。精神病の闇の深さを心の底から痛感させられる、下手をしたらトラウマ級のラストと言っても過言ではない。このラストによって、このドキュメンタリー映画は映像作品としての力強さを頑強な物にしていると言ってもいいだろう。
 それにしても素晴らしい映画だった。間違いなく今年観た邦画では今のところ一番(二番はヱヴァ)。シネモンドでは来週金曜日までやってるので、金沢近郊に住んでいる人は是非見に行って欲しい。