クソガキ万歳


おっぱいバレー   公式サイト
 傑・作!綾瀬はるかはその存在感の割に、「ICHI」や「僕の彼女はサイボーグ」などなど、あまり作品に恵まれていない感じがあったんだけど、ようやく代表作に巡り会った。
 舞台は1979年、北九州の片田舎。戸畑第三中学に一人の臨時教師・寺嶋美香子(綾瀬はるか)が赴任してくるところから物語は始まる。寺嶋先生は男子バレー部の顧問になるが、男子バレー部の面々はやる気ゼロのクソガキどもばかり。ある日寺嶋先生は、やる気のない部員たちに、「試合に勝ったら、おっぱいを見せる」という、とんでもない約束をさせられてしまう。俄然やる気になった部員たちは、猛特訓の末、大会に臨む・・・。
 いやー、いい映画だった。何がいいって、主人公のクソガキどもがいい。等身大の登場人物っていうのはこういうのを言うんですよ。思えば私も中学生の時はこれくらいクソガキだった。
 男子中学生というのは大抵エロのことしか頭にない。「ギルガメッシュないと」や伝説の催眠術番組「A女E女」を観ようとして夜更かしして、たまたま同時間帯に放送していた鈴木則文映画にハマってしまったりするものなのだ。
 しかも舞台は1979年、今のようにネットに有害情報が氾濫している時代とは根本的にエロの価値が違うのだ。私が中学生だった90年代ですら、田舎町ではエロは希少で、それぞれのエロコミュニティの中でエロの共有が行われていた。
 というわけで、この「美人女教師のおっぱいを拝むために頑張る」というのは実に説得力がある。いや、この設定に説得力を持たせるために、非常に丁寧に作られている。
 まずはきちんと練られた脚本。寺嶋先生が、いい先生で美人なんだけど、少し押しに弱い女性として徹底して描かれている。同僚に強く誘われたら断れないし、元カレに迫られてもホイホイとついて行ってしまう。そしてそういった描写の積み重ねが、「おっぱいを見せる約束をさせられる」という展開に説得力を与えているし、回想シーンがきちんと感動に結びつくようになっている。おバカ映画に見えて、脚本はかなり繊細に作られている。次にかなり頑張って再現されている70年代の風景。鉄道が西鉄北九州線(2000年廃止)じゃなくてどう見ても筑鉄だったり、カメラを動かすことで背景を多く映して、ちょっとわざとらしくノスタルジーを煽るシーンがあったりと、粗はないわけではないけれど、映画としては十二分の出来。70年代を意識したBGMも素晴らしい。70年代に直接的な郷愁を持ち合わせていない私ですら引き込まれてしまったのだから、実際にその時代を過ごした40代から50代の人が観たらもっと違う感想を抱くんじゃあなかろうか。
 あとは、映画を通してクソガキどもがとことんクソガキのままなのが素晴らしい。もし、映画の最後が「不真面目なクソガキが頑張ることを学びました」なんていう優等生的なオチだったら、ここまでは感動しなかっただろう。中学生のうちはクソガキはクソガキのままでいい。人間的な成長なんて、二十歳過ぎてからで十分である。寺嶋先生は映画を通してきちんと教師として人間的成長を遂げるので、映画スタッフはその辺をきちんと心得ているようだ。特にラストのあのシーンは笑いと涙無しには観られない美しい情景だった。2000年代の映画名シーンベスト10に入る、美しくも馬鹿馬鹿しい、この映画を象徴するシーンだったと思う。
 とにかく隙のない映画だった。綾瀬はるかのアイドル映画としても、クソガキ中心のコメディ映画としても、70年代を舞台とした郷愁映画としても一級品。娯楽映画のお手本みたいな映画だった。

追記
 映画を観ている間、ずっと眼鏡デブに感情移入していたような気がする。中学生の時、ああいうきちんと道化を演じられる愛されデブに私もなりたかったのかもしれない。あと、21世紀にもなってリアル中学生のブルマー姿を頂戴できるのは(多分)おっぱいバレーだけ。