ライトノベルにありそうでなかったマッピングファンタジー

星図詠のリーナ (一迅社文庫)

星図詠のリーナ (一迅社文庫)

父である国王の命を受け、辺境へと地図作りの旅に出た賢く若い王女「リーナ」と護衛の騎士たちは、正体不明の一団の襲撃を受け壊滅の憂き目にあったところを、流れの傭兵「ダール」に助けられる。何があろうとも任務を全うしようとするリーナと臨時護衛に雇われたダールは、妖魔をかわし、夜盗を退け地図作りの旅を続けていく中で宮廷の陰謀を掴むのだが、時を同じくして辺境の迷宮に眠っていた強大な何かが目覚める…。正統派ファンタジーの新鋭が贈る「本格マッピング・ファンタジー」。

 当初の予想とは裏腹に健闘を続ける一迅社文庫の最新刊。
 ライトノベルに限らず、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界というのは一つの定番である。だけど、街と街の移動や、どんな地図を使っているか、ということに疑問を持つことはほとんどない。基本的に大陸を旅しているはずが、その移動に伴う面倒ごとは意図的に省略されている(ことがほとんど)。近年「狼と香辛料」が商取引や為替の概念を持ち込んで話題になったのは記憶に新しい。
 この「星図詠みのリーナ」では、その辺に焦点が当てられている。リーナは測量をひたすら行い、街の地図を作り続ける。今までライトノベルを読む上で、書かれることがまず無かった物が書かれることで、ぐいっと世界の広がりを感じることができた。聡明で明るい性格のリーナも魅力的で、読んでいて実に楽しかった。傑作、とまでは行かないまでも読んで損はしない秀作。
 じきに出るであろう二巻が楽しみ。できればこの小説がもっと売れて、一迅社文庫起爆剤になって欲しいけど、まあ売れないだろうなあ。