心の弱い若者が社会へと還っていく物語


「ラースとその彼女」公式サイト
 これまたシネモンドで鑑賞。東京では去年の末頃から話題になっていたけど、ようやく金沢のミニシアターにもやってきた。
 個人的に映画館で鑑賞したい映画というのは二種類あって、一つはなんといっても大きいスクリーンで観たい映画。もう一つはというと、どこか心を温かくしてくれる映画。見終わった後の柔らかい気持ちを、少なくとも一緒に鑑賞した他の観客と共有している、というのがたまらなく嬉しいのだ。そして、今日見た二本は後者に当たる映画だった。
 この「ラースとその彼女」という映画は、誠実でみんなからは慕われつつも、幼少期のトラウマから中々周囲に溶け込めない主人公が様々な出来事を通して社会へと還っていく物語だ。
 人間嫌い(と言ってしまって良いだろう)のラースは、兄のガス、義姉のカリンと三人暮らし。といってもラースは離れのガレージでひっそりと暮らしている。恋人はおろか友人らしい友人もいないラースを、周囲の人、特に義姉のカリンは心配する。そしてある時、ラースがネットで知り合ったガールフレンドを紹介したい、と兄夫婦に切り出す。兄夫婦は当然大喜び。しかし、紹介されたガールフレンドはネットで購入したラブドール(精巧に作られたダッチワイフ)だった。
 ラースは、ビアンカと名付けたラブドールが本物の女の子であるように振る舞う。兄夫婦を始めとして、周囲の人は人間嫌いのラースがとうとう頭がおかしくなったと騒然となる。普通なら、この後はどたばたのコメディになるところだけど、この映画はひと味もふた味も違う展開を見せる。
 周囲の人々は、ラースに合わせ、ビアンカを人間として扱うのだ。そして、人間として社会に迎えられたビアンカを通じて、ラースもまた人々の輪の中に迎えられていく。この展開が、見ていて実に素晴らしいというか、涙無しには見られなかった。ビアンカを生み出したのはラースの心の壁かもしれないが、その壁を通して少しずつ社会へと溶け込んでいく。最後、心の傷を克服しビアンカを必要としなくなったラースの心の動きと行動は、実際に映画館で確かめて欲しい。本当に素晴らしい映画だった。