封印作品の憂鬱

封印作品の憂鬱

封印作品の憂鬱

ドラえもんが、ウルトラマンが、涼宮ハルヒが、封印だって!?
1970年代のアニメ裏事情、タイとの合作と著者権トラブル、そしてメディアミックスの鬼っ子・・・・・封印作品、現在進行形
映画秘宝』『hon-nin』掲載原稿に大幅加筆、『封印作品の謎』『封印作品の闇』に続く、著者渾身の〈封印三部作〉

個人的に大好きな「封印作品シリーズ」の三冊目。
今回著者が追いかけるのは

  1. 「日テレ版ドラえもん
  2. 「日タイ合作 ハヌマーン ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」
  3. みずのまこと涼宮ハルヒの憂鬱

の三本。一応、ハヌマーンハルヒに関してはまだ頑張ればブックオフで数百円で手に入るので、興味がある人はサルベージしておくように。私は三本とも鑑賞済みです。ドラえもんは本書でも紹介されている上映会で、ハヌマーンは普通にレンタルで、ハルヒはリアルタイムに雑誌連載で読みました。
どれも執念深く、とにかく一次情報に拘り、次々と関係者に突撃取材を繰り返していく。特に三本目のハルヒに関してはその後の、京都アニメーションにおける「ヤマカン騒動」にまで突っ込んでいく。どれも、業界の闇にメスを入れていくその姿勢が凄い。
詳しくない方に説明すると、こういったコンテンツ産業オタク産業)というのは、常にテレビ局や映画会社、出版社といった巨大資本による寡占状況にあり、フリーライターが取材しにくい状態にある。だから、うやむやのうちに作品の存在そのものが「無かったこと」にされてしまう「封印作品」という状況がたくさん存在する(別名・黒歴史)。しかも、みずのまことハルヒのように、この封印作品というのは現在進行形で作られている、という状況がこの本からも窺える。
しかし、著者はそのタブーを軽々と越えていく。ネット上の噂に左右されることなく、あくまで一次情報を知っている関係者に取材し、時には取材拒否の憂き目にあい、それでも封印作品を囲む壁を一つ一つクリアしていく。はっきりいって、暴かれる事実よりもその取材のプロセスの方が面白いくらいだ。
特に感心したのは三本目のハルヒである。
ある日突然みずのまこと版のコミカライズが終了し、別の作者のコミカライズが最初からスタートする。まさにタイムトラベルやパラレルワールド扱うハルヒの世界観をなぞっているようですらある。
しかも、「日テレ版ドラえもん」「タイ版ウルトラマン」に関しては、一応クリエイターの姿というものに触れることが出来た。しかし、ハルヒに関してはまったくそういった物が見えてこないのだ。あるのは流通するコンテンツと、キャラクターのみである。一番大事なのは作品のはずなのに、それすらもいつのまにかハルヒという巨大なビジネスを構成する一要素に過ぎない物になっていく。物語よりも遙かに速いスピードで消費されていくキャラクターたち。そんなオタクビジネスの一端が垣間見えるようで、背筋が少し冷たくなるような感じすらした。 
日本の裏に流れる「もう一つのエンタメ史」の一端に触れることが出来る数少ない書だと思う。特に「日テレ版ドラえもん」に関しては都市伝説的な噂が流れていて、正確な記述に触れる機会が少ないので、こういった本の存在は貴重であると思う。