彼女の知らない彼女

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彼女の知らない彼女

第二〇回日本ファンタジーノベルス大賞優秀賞受賞作。

昨日の「天使の歩廊」の帯に「受賞即決」とあったけど、たしかにこれと二つ並べられたら、即決になるのは分かる気がする。悪くはないけど、新人賞受賞の冠をつけて売り出す程か、と言わると少し弱い。

主人公の夏子は自分の人生に少し疑問を持ち始めている22歳。ある日、そんな夏子の前に一人のコーチを名乗る男が現れる。その村上コーチによれば、彼はパラレルワールドからやってきて、そのパラレルワールドの夏子は天才マラソンランナーでオリンピック候補だというのだ。村上コーチは故障した夏希(パラレルワールドの夏子)の代わりに、オリンピック選考レースに出てくれるよう懇願する。しかし、当の夏子に陸上経験は一切ない・・・。

一言で言えばパラレルワールドSF。だけど、SF方面の作り込みは期待しない方がいい。かといって、夏子がランナーとして成長していく様子に説得力があるかと言えば、それも微妙。どのパラレルワールドでも夏子と結ばれる運命にある小泉という青年がいるんだけど、彼も序盤にちょっと出てくるだけで、どうして登場させたのか謎。夏子の幼馴染みで親友の杏樹との因縁も、終盤取って付けたようで物語を浮上させるには至らなかった。

けどつまらなかったかと聞かれたら、べつにつまらなかったわけではない。スポーツ小説として疾走感みたいな物は十分にあったし、読んでいる間はそれなりに楽しかった。
「天使の歩廊」が素晴らしすぎて、過剰な期待をかけてしまったのだろう。