「ヘルプ」

88点

 ユナイテッドシネマ金沢で鑑賞。2,500万ドルの制作費にたいして、2億ドル近くの興行収入をたたき出したギガヒット作。本作でオクタヴィア・スペンサーがアカデミー助演女優賞を受賞。

黒人差別が激烈だった60年代のアメリカ・ミシシッピ州、白人家庭でメイドとして働く黒人女性は“ヘルプ”と呼ばれていた。作家志望のスキーター(エマ・ストーン)はメイドの置かれた立場に疑問を抱き、彼女たちのインタビューを元にした暴露本を書くことになる。社会的制裁を恐れ、誰もが口をつぐむ中、一人の女性の勇気が社会を揺るがすことになる。

 凄い面白かった。
 個人的に好きな映画というのがあって、それはなによりも役者達が「良い顔」をしている作品。この映画、みんな凄く良い顔をしている。
 主人公役のエマ・ストーン、黒人メイド役のヴィオラ・デイヴィスオクタヴィア・スペンサー、人種差別主義者・ヒリーを演じるブライス・ダラス・ハワードに至るまで、完璧なキャスティングと演技でした。脇役も、若手からベテランまでずらっと豪華キャスト。特に主人公の乳母的存在の老メイドにシシリー・タイソンが起用されてるんだけど、出演時間に比してその存在感たるや・・・。黒人女優のパイオニアとして、常に人種差別問題に直面してきた彼女にしかできない演技でした。
 演出面でも、ステレオタイプな人種対立の映画にはせず、小さな対立やギャップを入れることで、人種問題という重くなりがちなテーマをライトに描いて映画の一般性を高めている。主人公のスキーターは、当時の南部の州ではまだ珍しいワーキング・ウーマン。同級生は皆結婚して家庭に入っていて、白人女性が作る婦人会でも、少し浮いた存在。外見でもくせっ毛というコンプレックスを抱えている。さらに、白人だが貧民街出身というだけでその婦人会からつまはじきにされているシーリア。彼女は無知で教養もないが、同時に黒人への偏見も無く、彼女とミニーの物語はこの映画でも数少ない「安心して観られるコメディー」部分であると同時に、この映画の救いにもなっている。
 黒人メイドと白人婦人会、という対立構造の中に、スキーターとシーリアというどちらにも所属しない(できない)人間を挟むことで、映画がよりドラマティックになっているし、何よりも我々現代人に近い道徳観念を持っているために、非常に見易い造りにもなっている。この辺は、本当に巧い。
 他にも、スキーターとヒリー、対立する2人が共に「母娘の問題」を抱えているのも良かった。それぞれの母親役をアリソン・ジャネイシシー・スペイセクが演じているわけだけど、2人とも「この親にしてこの娘あり」といった感じの、一癖も二癖もある老婦人で、その個性と女優の演技がかなり巧い具合にマッチしていたと思う。シシー・スペイセク演じるヒリーの母親は、とある事件が切っ掛けで老人ホームに入れられてしまうんだけど、そのシーンとか、もう最高。
 ラストのとある展開がまたほろ苦くて、、、。スキーターやミニーのくだりから、完全に大団円に終わるものと思っていたので、かなりの不意打ちだった。人種問題、というのがそんなに簡単なものでは無い、というのを象徴するシーンなんだけど、ラストのとあるキャラの後ろ姿の凜と立つ感じと、そしてその背中が画面の奥に奥にと消えていく寂しさ。何とも言えない余韻が残る名シーンでした。

 まあベタなお話で、予告編以上の予想外な展開、とかも無いんだけど、個人的にはグッとくる良い映画でした。オススメ。