「僕達急行 A列車で行こう」

75点

 森田芳光監督の遺作になってしまった作品。
 私の場合、残念ながら森田監督の作品はあまり観ていなくて、スクリーンで観たのは「ハル」「武士の家計簿」のみ。ビデオで観た作品を入れても「家族ゲーム」「メインテーマ」「ときめきに死す」「間宮兄弟」くらいなもの。
 というわけで、森田芳光初心者として、少し申し訳ないような気持ちで観に行きました。

 この映画は、小町(松山ケンイチ)と小玉(瑛太)の二人の鉄道マニアがひょんな事から意気投合して、そしてやがて九州で趣味による人脈から一つの仕事を成功させるまでを描く。二人のホモっぽい感じ(当然ホモでは無い)がもの凄く良かった。この雰囲気は、この二人じゃなきゃ絶対に出ないよなあ。鉄道マニア同士の超絶どうでも良い(当人にとっては超重要)微妙な趣味の違いとか、もの凄くよく表現されていた。オタクのデフォルメとしては、完璧なキャラ造形でした。

 この映画、もの凄く私好みの映画でした。
 主人公二人の、趣味と仕事への距離感が私の理想そのもので、かなり好印象。
 学生の頃、私の友人で、映画館でも携帯の電源を切らずにマナーモードにしておく人がいたんですよ(私は大学院生で彼は社会人でした)。そして、取引先や上司から着信が来ようものなら、例え土日だろうとそそくさと映画館を出て電話対応をするような人間が。なんたる社畜根性。私には絶対に無理。絶対に絶対に無理
 主人公達は、物事に優先順位、というのをそんなにはっきりとは持たない人達なんですね。別に仕事を蔑ろにしているわけではない。趣味を仕事に優先させるような無責任な人間では無い。でも、きちんと自分の時間を作って、そこだけは、何の介入も許さない。仕事第一とか、趣味優先、というのではなくて、もの凄く自然体で仕事も趣味もこなしていく。
 なんか、その辺が「大人だなあ」と思うわけです。

 当然、オタクならではの「モテない」「希にモテたとしても、女性への距離の取り方が分からない」という悩み(?)が発生するんだけど、これまた彼らは女性に振り回されないんですよ。いや、彼らも年頃の男性なので振り回されはするんだけど、どこかで「女といるよりも、同好の士と趣味について語っていた方が楽しいし・・・」という「お馴染みの空気」が漂っていて、なんともはや、な気分にさせられました。
「僕達って、やっぱりモテないのかもなあ」
「女の人はよく分からない。よく分からないことは、考えても無駄だから考えない」
 つくづく名言だよなあ。

 というわけで、観ている間ずっと主人公二人に感情移入しっぱなしだったので、映画が終わってしまうのが本当に寂しかった。森田芳光監督の遺作に相応しい、温かい映画だったと思います。

 だけど、本当は、この映画が遺作になって欲しくなかったよ。森田監督、今まで本当にありがとうございました。