大傑作ではないけれど、愛すべき野心作ではある

けいおん!」8/10点

 初日に1回目、次の日に2回目を観た。石川県ではワーナーマイカル御経塚独占上映。そのせいか二回ともほぼ満員。久しぶりにシネモンド以外で、半分以上席の埋まった状態で映画を観た。やはり、大人数で観る映画は楽しい!
 テレビ版は全話視聴済み。石川県では久しぶり(コードギアス一期再放送以来?)の深夜アニメだった。

 うん、凄く良かった。映画としての出来は必ずしも良くはないけれど、愛すべき作品。ガールズバンドものとしては、「スイングガールズ」以上「リンダリンダリンダ」未満。
 やたら望遠が多用されているのが印象的。4人(+梓)を同じカメラに写す、ということにもの凄い努力と根性が割かれていて〈笑)、途中から情報量の多さと気持ちよさにクラクラ来た。足の演技や指先の表現は、歴史に残るレベル。「イリュージョニスト」を観たときに、「これは日本には無理だなあ」と絶望したけれど、ちゃんと日本にも逸材がいた。
 映画としての出来は必ずしも良くはない、と書いたけど、それは脚本の構成のまずさが散見されるから。やたらキャラを詰め込んでいる割に、シナリオとしてのまとまりに欠け、散漫とした印象が残る。その一番の要員は、やはりお話の軸が二本あるからだと思う。「梓のための曲作り」と「卒業旅行」。二時間足らずの映画にメイン5人+友人・家族・先生・クラスメイトを登場させたうえでお話の軸が二本あり、しかもその二つはあまり交わらない。正直、ロンドンには行く必要は無かったんじゃないかな(彼女達に卒業旅行をプレゼントしたい、というスタッフの気持ちはよく分かるけどね。)。
 ただ、やはりこれは私がけいおん!好きだからかもしれないけれど、ところどころ泣きそうになるシーンが。ロンドンの寿司屋でのライブでの音合わせのシーンとか、なぜか涙が出そうになった。特にラスト、4人の足下だけをもの凄い長回しで映すシーン。直前の屋上のシーンと相まって、瞬きできないくらいハッとさせられた。
 実は、やたらと望遠による「映画っぽさの演出」に拘ってるのに、ラスト以外長いカットが全然無い。簡単な日常芝居にすら長回しを多用していた「涼宮ハルヒの消失」と比べると不自然なほど。それは、やはりこのラストに全てを詰め込みたかったに他ならない。けいおん!、という作品において、映画的なカタルシスをストーリーに求める、というのは考えにくい。だから、山田監督は映画的なカタルシスを演出に求めたんだと思う。3回も出てくるライブシーンですらも、カットを細かく割って長回しを使用せず、最後の最後の最後で、4人の足取りを顔を写さず長時間にわたって写す。これまでの4人の関係や成長がその足取りに象徴されていて、映画のラストを飾るに相応しい感動的な演出になっている。
 このラストで、4人の顔が映らないのも良い。これは彼女達=視聴者の若者、ということ。一見、ただ日常を送っているだけに見えて、着実にみんな明日へと一歩一歩前進している。そういった思いが伝わってくる。正に、3.11以降のこの国を背負わざるを得ない中高生にこそ観て欲しいフィルム。
 また、非常に感動的なシーンなんだけど、あんまり引っ張らずにエンディングへ行く。あと5秒くらい引っ張られたら泣いちゃうんだろうなあ、というところでストン、とカットが切れる。これって、本当に「上品」だと思う。

 というわけで、個人的には出来の良い映画、とは思わないけれど、心に残る良い映画だったとは思う。オススメ、本当にオススメ。