今日観た映画の感想

「ピューぴる」8/10点

 シネモンドで鑑賞。
 現代アーティスト、ピューぴるの2001〜2005年を追いかけたドキュメンタリー映画。傑作。
 予告編から予想していたのとは、全然違う映画だった。
 この映画、凄い映画だった。
 てっきり、よくある「作品製作の裏側を描いたドキュメンタリー」だと思ったら、そういう映画じゃ無かった。 
 この映画は、ピューぴるというアーティストの作品作り以上に、「口分田和隆」という青年が如何にして女性になっていくのか、というドキュメンタリーでもある。そして、その変遷における「愛し愛されたい」という愛に関するドキュメンタリーでもあり、また彼を取り巻く家族達の家族愛のドキュメンタリーでもある。

 映画は2001年から始まる。まだピューぴるは無精ヒゲを蓄え、週末に女装してはクラブに行き、一夜限りの相手を求めるゲイの青年だ。作品作りも、比較的行き当たりばったりで行っている。2003年、ピューぴるは髪を伸ばし、脱毛処理も行い、そして明確な作品作りの方向も見つけ始める。2005年、初めての個展を成功させ、ピューぴる自身も恋を見つけ、彼のために「女性」になる本格的な努力を続けている。本格的なホルモン投与を始め、去勢手術も受ける。
 そして、2006年・・・。

 ここまで、所謂ニューハーフの人が、いかにして身体を女性に変化させていくのか、というドキュメンタリーって以外と無かったと思う。それだけでも映画としての価値がある。
 そして、そのピューぴるの肉体的な変化がそのまま作品への変化へと緩やかにつながっていく様が描かれるのが映画的に優れているし、さらには彼女(今後はこう表記します)の家族達が良い!
 折に触れて家族の、特にピューぴるの兄のインタビューが出てくるんだけど、彼らの「顔」が素晴らしいんですよ。女装者でありゲイであり、ついにはニューハーフになってしまう息子を受け入れ、普通に接する。家族で焼き肉に行くシーンとか最高ですよ。兄にいたっては、作品作りのアシスタントまでしてくれる。彼らがピューぴるについて語るとき、皆笑顔なんですよ。彼らだけじゃない、ピューぴるについて語るとき、みんな笑顔なんですよね。これだけでも、ピューぴるが一流のアーティストである証になっている。
 彼女はストレートの男性との恋、といういわば報われることの薄い恋に陥って、そしてその恋が実を結ぶことは無いんだけど、その恋と愛がきちんと作品に昇華され、その愛は周囲の人々に静かに広がっていく。このことがとても感動的で、これだけでもこの映画を観て良かった、と心から思わせてくれた。

 アーティストの遍歴映画としても、ニューハーフの女性化プロセスを追いかけたドキュメンタリーとしても、さらには「愛」を描いた映画としても非常に面白かった。オススメです。