野球を文章で描くと言うこと

ぐいぐいジョーはもういない (講談社BOX)

ぐいぐいジョーはもういない (講談社BOX)

 女・伊藤智仁の異名を持つ「ぐいぐいジョー」こと城生羽紅衣(じょう うぐい)と、キャッチャーにして強豪校の4番に座る小駒鶫子(こま つぐみこ)。
 二人は1年生の春に運命の出会いをし、さらにチームメートやライバルにも恵まれ、ついに三年夏、地方球場で行われた女子高校野球全国大会の決勝で完全試合を達成する。
 物語はその決勝戦のクライマックスから始まり、試合と二人の物語がくるくると切り替わりながら紡がれていく。
 野球シーンの文章が非常に印象的。
 地の文は普通の文体なのに、野球の、特にピッチングの部分は極めて短い文章でテンポ良く改行している。そういえば、あさのあつこも同じような短いセンテンスを多用していたのを思い出した。野球というのはプレイの一つ一つに間を持つから、それを表す文章も短くテンポ良く刻んでいくのが適しているのかもしれない。
 それにしても、この人の書く野球小説は非常に好ましい。前作の「藤井寺さんと平野くん、熱海のこと」もそうだったけど、淡々とした文章の中に潜む熱さと郷愁が常に胸を打つ。なんだろう、野球ファンの友人と昔のパリーグのことや微妙な成績の外国人助っ人、短命に終わった中継ぎ投手などについて語っているときの「あの気分」にさせてくれる。
 あとは、「花咲くオトメのための嬉遊曲*1に続いて女子野球にスポットを当ててくれたのが非常に嬉しい。女子選手が野球を続けるには事実上男子に混じるしかなく、しかも事もあろうかそんな状況がほとんど疑問視されない、という不健全な状況*2が放置される中、女子野球がもう少し注目されてくれたら、と思わずにはいられない。

追記
 そういえば、この小説って「劇場版 少女革命ウテナ」だよね。「学生野球=モラトリアムの象徴」「キスで覚醒」「グラウンドという箱庭を出て外の世界へ」etc.。その辺も含めて、なんだか非常に胸に残る小説でございました。

*1:樺薫って夏葉薫氏の別名義で良いんですよね?違っていたらごめんなさい

*2:一部の女子選手を持ち上げるのもいいが、そんな素晴らしい資質を持った女子選手が「なぜ男に混じって控え選手としてベンチにいるのか」という状況を問題視して欲しい。