至高の青春映画

サイタマノラッパー

SR サイタマノラッパー [DVD]

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 シネモンドで鑑賞。去年の映画なんだけど、新作「サイタマノラッパー2」にあわせて復活上映。前作を観ていなくてちょっと後悔していたので大喜びで見に行った。
 えーっと、どう説明していいのか分からないけれど、涙が止まらないほどに感動してしまった。典型的な低予算映画で、自主制作フィルムの香りすら漂う代物なんだけど、そんなの吹き飛ばすくらいのパワーが詰まった、そしてエネルギーがもらえる「ちょっと遅れた青春映画」。
 主人公はニートのMC IKKU。埼玉のド田舎でSHO-GUNというラップグループを主催している。メンバーはかつて伝説のラッパーだった「病弱な竹田先輩(TKD)」、高校の同級生でフリーターのMC TOM、実家の農家を手伝うMC MIGHTY、そしてやる気があるのか分からない先輩二人という煮え切らない面々ばかり。しかし、IKKUは初ライブ開催に向けて疾走を始める。
 
以下ネタバラシのため白黒反転
 
 最近増えてきた、アラサー向け「一週遅れの青春映画」。大学院で夢破れ、地方で漁師をやっている私がこの物語に感動しないわけがない。
 若者の怒りがつまった映画化と思ったら、若者の静かな絶望が詰まった映画だった。とくに会議室のシーンは必見。おそらく素人さんだと思われるエキストラのたどたどしい演技が、奇跡的なまでのリアリティを演出している。勝ち組である「大人たち」と、負け組である「永遠の青年たち」の間に広がる絶望的なまでの壁が象徴されているシーン。
 あとは、クライマックスをあえて描かなかった(予算的にかけなかった?)のが反って良かった。最後の居酒屋のシーン。IKKUの魂のラップが、TOMの魂を揺さぶる。そして、TOMが立ち上がったところで唐突なラスト。エンディング曲は竹田先輩が遺した曲で、MIGHTY含めフルメンバーでのラップ。おそらく、映画の尺としても本来ならメンバー全員との和解とライブシーンがクライマックスとして想像されるが、「そこは、他の映画と同じなんで省きます」というファンキーな姿勢を感じた。このクライマックスは、あったらあったでスカッとしたのだろうが、やはり居酒屋のシーンで終わることこそが、この映画の存在意義であったような気もする。