今のところ間違いなく今年ナンバーワン。女教師の復讐とディスコミュニュケーションの恐ろしさを描いた壮絶ホラー


原作既読。数々の賞に輝き、ベストセラーにもなった湊かなえのデビュー作「告白」の映画化。原作は背徳感と爽快感がごちゃまぜになった、奇妙な読後感に包まれる、不思議な怪作(だけど傑作でもある)だった。
 監督・脚本は「下妻物語」でスマッシュヒットを飛ばして以来、着実に人気監督の道を昇っている中島哲也。主役である女教師を演じるのは「ヴィヨンの妻」で2009年度の主演女優賞を総ナメにした松たか子
 それにしても、凄い映画だった。おそらく30年後には邦画史に残る傑作として、そして松たか子の代表作として映画史の1ページに刻まれているであろう傑作。松たか子は本作で2年連続主演女優賞総ナメの可能性も高くなってきた。

以下ネタバラシを含むため畳みます。原作を読んでない人は原作を読まずに劇場に行くことをオススメします。
 娘を生徒に殺され、復讐に燃える女教師とその教え子達の物語。
 狂気に染まった人間の恐ろしさ、だけなら従来のサイコホラーとたいした違いはない。本作が壮絶なのは、人間と人間のディスコミュニュケーションの恐ろしさを余すところ無く描ききった、という点だろう。松たか子演じる森口先生の放った『告白』によって、生徒や生徒を取り巻く人間達の間に蔓延する「人間不信」。それが少しずつクラスの人間関係を壊していき、しかも確実に女教師の復讐が成し遂げられていく。
 そしてそんな女教師を演じる松たか子の演技が素晴らしい。おそらくは「良き母」であり「良き教師」であったであろう森口先生。その森口先生が復讐に燃え加害者である元教え子を追い詰めていく。個人的に全身の汗が引くほどにゾッとしたのはファミレスのシーンの直後での涙を流しながらの嗚咽。それでも自分を信じてくれるクラス委員の美月と、おそらくその美月によって疼いた教師としての良心を再び復讐の炎でねじ伏せる渾身の演技だった。そして、殺人者である修哉と森口を心配してその行動を取った美月はその修哉に殺され、森口は美月からの情報を基に『母殺し』という究極の復讐を成し遂げる。この3者の絶望的なまでのすれ違いが観ていて胸に突き刺さる。
 さらには、最後の最後「なーんてね」と言い放つ森口。この台詞は原作にはないのだが、この一言によってさらに心を抉られた人も多かったのではないだろうか。私が観たときは客席は8割方埋まっていたのだが、半数以上の人がスタッフロールが終わった後もなかなか席を立てずに呆然としていた。それだけ凄い映画だったと言うことだろう。
 鑑賞するのに多大な精神力と体力を要する映画だけに、なんとか体調がベストの時にもう一度鑑賞しておきたい。