メディアワークス文庫の実力や如何に

 先月創刊されたメディアワークス文庫
 以前より講談社BOXやジャンプ作家を表紙に使った集英社文庫など、ライトノベルの市場に一般文芸を持ち込もうとする試みが商業的に成功しているので、遅ればせながらライトノベルの勝ち組、角川グループがこれに参戦。企画としては明らかな出遅れ、二番煎じ三番煎じなんだけど、その強力な販売ネットワークを活用して全国で大がかりに展開しているご様子。
 さすがに全てを追いかける事が出来ないので、気になった作家・作品を適当に読んでみた。
 一応総評としては、なかなかに粒ぞろいの第一回配本だったんじゃなかろうか。電撃大賞を背景に、莫大な人材を抱えるメディアワークスだけに、今後の展開を期待したい。ただ、カタカナが入ったレーベル名は長続きしないイメージがあるので、もう少し名前を考えた方が良かったとも思う。

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

 去年より電撃大賞に新設された「メディアワークス賞」の第一回受賞作品。
 はっきり言って、もの凄くよくできた小説でした。
 確かにライトノベルよりはもう少し上の年代を狙っている感じ。大学生から三十前後の社会人くらいがターゲットなのかな。
 文体は「読みやすい西尾維新」という感じ。会話のテンポがもの凄くよくて、すいすいと読ませてくれる。さらに、「映画」をめぐるアイデアや何とも気分の悪い読後感などが最高だった。欲を言えば、100ページくらいでまとめてあって、短編集の中に表題作として入っていたらもっと絶賛していたと思う。300ページも使って書く話じゃないよね。

太陽のあくび (メディアワークス文庫)

太陽のあくび (メディアワークス文庫)

 同じく第一回メディアワークス賞受賞作。「アムリタ」があまりにも完成度が高かったので、今後これが基準になってしまうのか、電撃大賞に投稿しようとしている若人も大変だなあ、と思ってしまったのだが、こちらは凡作。そうそう人材は転がってないみたいね。

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

 沢城みゆきラブ。
 沢城みゆきファンの作者が、「図書館戦争」のアニメ化を期に、沢城みゆきがモデルの小説を書いてしまいました、という小説。いつもの有川浩で、安心して楽しめます。

 最・高!
 古橋秀之がついに本気で武侠小説を書き始めた。これは一大事件である。
 いや、今まで古橋秀之はどこかテレがあった気がするのね。SF要素を入れたり、妹を出したり。
 その圧倒的な温度を持ちつつもムダのない、格闘家の筋肉のような文体で、圧倒的な強者とそれに立ち向かうあまりにもちっぽけな主人公を逃げることなく描き始めていることに感動。
 何年でも待つので是非完結させるまで走り続けて欲しい。