総選挙を前に、高速道路1000円について思うこと

 最近、金沢市において県外ナンバーが目立つ。週末の、高速道路特別割引を利用してやって来る観光客の自家用車だ。東海北陸道が開通したのも要因になっているだろう。少なくとも北陸、とりわけ石川県は観光客がかなり増えているんじゃ無かろうか*1
 ただ、当初はやたら持て囃されていたこの政策も、ここに来てようやく負の側面がクローズアップされるようになってきた。ちなみに、私はこの政策は愚者の人気取りに過ぎないと最初から呆れていたので、もっと問題が表面化されてこの政策が見直されることを強く望んでいる。
 この負の側面だが、金沢市で痛感するのは簡単だ。土曜の午後に、兼六園下から金沢駅行きの路線バスに乗ればいい。まず広坂大通りの起点、109前のT字路で渋滞が発生している。金沢は道が入り組んでいる上、バス専用レーンなどが一部未整備。その上、路線バスの大半が159号線の香林坊または片町、野町バス停を経由するために平日でも慢性的に渋滞が発生している。夕方・夜間はこれに客待ちのタクシーが加わってちょっとしたカオス状態となる。しかし、今までは不便を感じない程度の混み具合だったのが、特別割引がスタートしてからはこれに観光客の自家用車が加わって159号線が大渋滞を引き起こすようになってしまった。これによってバスダイヤは常に乱れ、地元住民の足に大打撃を与えてしまっている。先日など、武蔵ヶ辻でバスが動かなくなってしまい、仕方なく大荷物を抱えて駅まで歩く羽目になってしまった。この渋滞によってバスの減便、乗客の減少などの被害が北鉄に出ているはずだが、おそらくこれを補填するのは県や市で、ただでさえ良くないとされる地方の財政を圧迫するはずだ。最悪補填無しで北鉄の赤字はさらに膨らみ、郊外の赤字路線が合理化の名の下に減便・廃止されるかも知れない。そして、それによる不利益を被るのは我々特別割引の恩恵を全く受けることのないバス利用者なのだ。
 地方都市の路線バスさえこの有様なのだから、さらにスケールアップされた問題も次々と起こる。フェリーの廃止、高速バスの利用者減、渋滞によってトラック輸送も大きな被害を受けているはずだ。まだ具体的な数字は出ていないが、特急が走っておらずさらに路線が長距離に及ぶローカル線(肥薩オレンジ鉄道など)は間違いなく大打撃を受けていて、それこそ息の根を止められてしまうのではないだろうか。そして、その不利益を被るのは間違いなく交通弱者、もっと言えば特別割引の恩恵を受けづらい人々なのだ。
 高速道路を1000円にするのに、たくさんの血税が投入されているはずだが、それによって発生するローカル交通網の赤字解消にも税金を投入するのだろうか?おそらくはそんなことはなくて、きっと地方の住民みんなで少しずつ負担を背負うことになるんだろう。やれやれだ。
 国家の大動脈である高速道路にここまで大胆な政策を施すならば、当然シミュレーションなどによる実験や有識者による慎重な議論が必要だったはずだ。そういった物が全く無しで始まってしまった*2、たんなる愚者による愚者に向けたアピール、醜いとしか言いようがない。しかも、これに対する野党第一党の対案が高速無料化、というのも情けない*3
 私としては、お盆に発生する大渋滞でちょっとしたパニックが全国の高速道路で発生することを期待している。渋滞が全く動かなくなり、道路脇で用を足したり、車内が幼児の糞尿まみれになる車が続出したり、ストレスが限界を超えた者が喧嘩を始めたり、お年寄りが倒れて医療ヘリが飛び交ったり、とにかく社会問題に発展することを期待する。そうすれば、少しはこの政策が見直されるのが早まるだろう。
 というか、期待しなくても五人くらいは死ぬんじゃないか?

追記
 全く同じようなことを既に「一本足の蛸(id:trivial)」が書かれていました。全く同意です、この政策なんとかならんもんか。やっぱり政権交代しか無いのかなあ。けど、民主党が出してる対案の完全無料化は、ちょっと劇薬過ぎる気がする。メリットも大きいけど、デメリットの検証は十分になされているんでしょうか?

*1:と言っても景気浮揚にはあまり役に立っていなさそう。土日の一泊二日で帰ってしまうし、車中泊などで済ませてしまう人も多く、石川県に宿を取らない。賑わっているのは飯屋とガソリンスタンドくらい、という印象。

*2:ある程度は議論したのかも知れないが、報道などでは突然麻生総理がぶち上げたようにも見える。

*3:土日特別割引よりは遙かにマシだが、ちゃんとした実験や議論はしたのかは疑問。あと、おそらく壊滅してしまうであろうローカル交通網の維持はどうするつもりなのだろうか。