ベッキーさんシリーズ

街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)

玻璃の天

玻璃の天

昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。

 昭和初期を舞台にした連作ミステリ「ベッキーさんシリーズ」の最初の2冊。最新刊「鷺と雪」はまだ未読。しかしまあなんだろうね、素晴らしすぎてため息しか出ないとはこのこと。なんでもっと早く読んでおかなかったんだろう。
 昭和初期、やがて来る薄暗い時代を前に、日本は文化の爛熟期を迎えている。西洋と日本本来の文化が混在し、近代化を謳歌する日本。そんな、我々が憧れて止まない昭和モダンの世界が英子という少女の目を通して実に鮮明に描かれていく。
 なんといってもベッキーさんこと別宮(べっく)みつ子のキャラクターが良い。女だてらに自動車の運転手として働く謎の女性。運転手の制服に身を包むその姿はさながら男装の麗人で、常に慎み深く英子に付き従う。しかし教養は深く、武道や射撃にも優れるパーフェクト・ウーマン。そんなベッキーさんとともに、英子は一つ・また一つと出くわす謎を解いていく。
 といっても、舞台やキャラクター配置から想像されるような推理活劇ではなく、あくまで物語は静かに、感情豊かに昭和モダンの世界を映し出していく。その様子はまさに幻灯機のよう。
 ただ、美しい物を美しく描くだけではなくて、きちんと時代の薄暗い部分もきちんと描かれる。例えば女性蔑視や思想統制、貧困などへの批判も垣間見られ、北村薫のこの物語に込めたメッセージに触れることもできる。
 一冊目でベッキーさんとの出会い、二冊目でベッキーさんの過去が語られた。三冊目ではどんな物語が語られるのか、今から実に楽しみ。すぐに読みます。
 あと、時代が時代だけに登場する女の子がみんな和服を着ているんだけど、柄のチョイスの仕方が実に良い。きちんと考証しているのが伺える。英子とその友人たちが着る和服の柄にも注目していきたい。
 ちなみに読んでいて、どうしてか脳内ではずっと某ガンアクションマンガの某メガネメイド(CV 富沢美智恵)でヴィジュアライズおよび脳内アフレコされていました。英子の声は花澤香菜かなあ、なんとなく。