早川から新レーベル創刊

猿駅/初恋 (想像力の文学)

猿駅/初恋 (想像力の文学)

 今まで早川書房からは、国内作家専門レーベルとして「ハヤカワ文庫JA」と「ハヤカワSFシリーズJコレクション」の二つがあったんだけど、このたび新レーベル「想像力の文学」が創刊。第一回配本は田中哲也の短編集「猿駅/初恋」と瀬川深「ミサキラヂオ」の二冊。
 まずこの「猿駅/初恋」を読了。なるほど、新レーベルを立ち上げるだけあって、SFやミステリという枠には填らない奇妙な短編集だった。近年SFマガジンでプッシュしている「スプロール・フィクション」のレーベルになるのだろうか。
 「猿駅/初恋」だけど、初出年代がばらばらなだけあって、収録作品のジャンルはもとより、質がかなり不安定。表題作「猿駅」みたいな傑作があったかと思えば、ちょっと冗長すぎて読むのがしんどい作品もあったり。ただ、一冊の短編集としてはそれなりの読み応えがあった。
 「猿駅」は書き出しが素晴らしい。
無人の改札口を出ると、そこはもう一面の猿。どこかいびつな半月と、古い電柱に取り付けられた水銀灯の光に照らされてすべてが青白い』
 この一行目でビジュアルでやられてしまった。その後のドロリとした読み口と不思議な読後感。十数ページの掌編ながら、心にずしりと来る傑作。これだけでも立ち読みでいいから(失礼!)読んでほしい。