去る2007年。横浜でアジア圏初となる世界SF大会ワールドコン JAPAN 2007」が開催された。当然私も参加した。
そこで、瀬名秀明の企画立案で、「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」という五時間にもわたるシンポジウムが開かれた。これは日本を代表するロボット・AIの研究者が自分の研究についてプレゼンし、それをもとに現役のSF作家を交えてロボット技術の未来像についてパネルディスカッションをする、というものだった。
 日本の最先端研究者による発表はどれもすばらしく、知的興奮を伴う物だった。ある者はハードウェアの面からロボットに迫り、ある者はソフトウェアの面から、そもそも人間とは、という問いに迫る。研究の切り口でこうもその内容に広がりが出るものなのか、と驚きを隠せなかったのを覚えている。
この本は、そのプレゼンとディスカッションを文字に起こし、なおかつSF作家による返答、短編SFを加筆したものだ。円城塔、堀晃、飛浩隆山田正紀瀬名秀明の五人が当時のディスカッションに加わり、この本にも短編を寄せている。
 こういった本は珍しい、というか世界でもあまり類を見ない取り組みなんじゃないかしら。とにかく研究者のプレゼンが面白すぎる。こいつら、完全にマッドだよ(笑)、ほんと。私の研究分野だと、もう少し紳士ですよ、普通は。だって、人間そっくりの機械を作ろうとしている人もいれば、「人間はどこまでロボットか」なんて議論を始めちゃう人もいて、科学的哲学的内容てんこ盛り。本当に面白いよ。
 あとはSF短編だと、堀晃「笑う闇」が面白かった。ロボット三原則ものの変奏なんだけど、最後はなるほど、と唸らされた。あとは円城塔が、相変わらずさっぱり訳が分からないんだけどなぜか面白すぎる短編を書いていて、これも面白かった。
 厳ついハードカバーで値段も高いけど、SFファンならもの凄く楽しめると思う。