中学生から高校一年生向け

ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~

ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~

失恋の痛手が癒えぬ少年勇希は、なぜか量子のことばかりを話す不思議な美少女あいりと出会う。しかし、いきなり読者だけに知らされる衝撃的な事実…。なんと、彼女の耳は猫の耳だった。

 私は理学部物理学科卒で、現在も大学院で物理学を専攻しています。量子力学には苦い思い出があって、量子力学系の単位を片っ端から落としたために学部時代に留年しました。
 そんな私ですが、ちょっと量子力学に関する本のレビューです。「萌える元素周期」が先日話題になったばかりのPHP「萌える科学シリーズ」最新刊です。
 量子力学というと、理系学部出身の人でも『あれは特別な学問だ』などと言う人がいますが、そんなことはありません。『普通じゃない人』がやっている(笑)、というだけで学問としてのプロセスは他の物理学(力学、電磁気学、熱力学、etc.)となんら変わりません。現実に起こっている自然現象を単純化・一般化し、数式で表すことで数学的正当性を確かめ、再び自然現象を単純化した実験・観測・測定という手段によってその一般化数理化した概念(法則、というやつです)の正しさを積み上げていく。量子力学が少し変わっている点は、その理論の部分が比較的高度な数学で記述されている、という点と実験での証明が難しいという点でしょうか。しかし、だからこそ最もセンセーショナルな分野であるとも言えます。
 というわけでこの本ですが、結構良い本だと思います。数式は極力使わず、量子力学で多用される概念『ゆらぎ』『確率』『波』などをかわいい絵柄で効果的に説明していると思います。この辺はマンガの力でしょうか。原作と監修をポピュラーサイエンスライター竹内薫氏が行っているだけあって、内容もかなりまともです。中学生や、公式の暗記に飽きてしまった高校生が読む分にはかなり良い本です。
 ただ、やはりマンガの欠点として、圧倒的に学問的な情報量は少ないです。進学校の理系コースにいるような高校生は、物足りなさを覚えるのではないでしょうか。そういう人はまよわず「ブルーバックス」→「ファインマン物理学」と読み進めましょう。
 あとは、最近流行りの素粒子論SFの副読本としてちょうどいいかも。