著者の嬉しそうな顔が浮かぶ

酒道入門 (角川oneテーマ21)

酒道入門 (角川oneテーマ21)

 私自身がそうだから言うのだが、酒飲みというのはたいてい理屈っぽい。というか、理屈を愛しているとでも言うのだろうか。だから、それこそ命の次に大切な酒の話となると、いくらでもそれこそもの凄く嬉しそうに蘊蓄を語ってしまうものなのだ。
 というわけでこの本だが、一応新書の体はしているが、ほとんど島田雅彦氏の酒にまつわるエッセイ集と言って良い。はっきり言って書かれている情報にはそんなに価値はない。ただ、お酒について嬉しそうに語る著者の顔がページの向に浮かんできて、同じ酒道楽の身としては非常に楽しくなった。

たとえば、午後三時半。その日の仕事が片付き、ポッカリと時間が空いたとする。     p.9より引用

まず書き出しからこれである。この時点で多くの人にとってこの本が役に立たないことが分かる(笑)。平日の三時半なんて、腐れ学生の私でさえそんな時間からは飲まない。ほかにも様々な名言が飛び出していく。

  • 『あの頃は、酒場に喧嘩を奉納しにいくような雰囲気がありました』(太字の部分も原文ママ)
  • ずっしり重い酒でメランコリーの海に沈むべし
  • 『酔うことと、頭が冴えていることは矛盾しない」
  • 『令嬢こそ掃き溜めが似合う。令嬢こそ北区の酒場につれていかないといけない』
  • 『説教をしにキャバクラに行く』
  • さあ、これからは酔っぱらいになる時間だ
  • 私は水と妄想でできている
  • 『イラン人は、実はこっそりと家で飲んでいる
  • ウイグルで美女を眺め、羊肉を食らい、白酒をあおる
  • アイルランドでは、シングル・モルトを飲む時はほら話をしてもいいというローカル・ルールがある』
  • 『茶に「野点」があるごとく、自由な「野酒」があってもおかしなことではない』

まさに、このように名言迷言珍言のオンパレードだ。当然同意出来るものもそうでないものもあるが、何よりも本人が楽しそうに書いているのが文面からも分かる。この人は、お酒も自分の流儀も大好きなのだ。そして、この人とは絶対に楽しくお酒を飲める。
この書いてあることよりも、書いている本人に対する親しみから感じる楽しさ。どこかで似たような本を読んだことがある気がする、と思っていたら、北方謙三先生の人生相談集が多分そうだったことを思い出した。。