雪の断章

雪の断章 (創元推理文庫)

雪の断章 (創元推理文庫)

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが…。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。

実は佐々木丸美を読むのはこれが初めて。雪の断章は映画にもなっているんだけど、それも観ていないので、本当にまっさらな状態でこの本を取った。
一人の孤児である少女が親切な青年に拾われ、孤児故のさまざまな困難を乗り越えながらも、一人の女性として幸せを獲得するまでの物語。創元推理文庫から出ていることもあって、ミステリ的な物を期待する人もいるかも知れないけど、呆気にとられるほどにミステリ要素は薄い(一応殺人事件は起こるけどね)。
なんか、凄く面白かったんだけど、読んでいて「人間が幸せになるのに、ここまで葛藤せにゃならんがか」、と少しいらいら、うーんちょっと違うな、なんだかもどかしい気分になってしまった。飛鳥を取り巻く環境が、とにかく飛鳥(と読者)を安心させてくれない。祐也と史郎の二人の青年が、数少ない飛鳥の拠り所なのだけど、一つの殺人事件と一つのなんてこと無い心のすれ違いのぜいで、最後まで完全なる安息の地とはなり得ない。
最後も、(以降ネタバレのため白黒反転)史郎の自白と自殺はおそらく飛鳥の今後の人生に薄暗い影を落とすだろう
ただ、それでも飛鳥は幸せになるために力強く生きていくのだろう。それだけの知性と力強さを、飛鳥は持っている。私も幸せにならねば、と強く思わされる、そんな小説だった。
それにしても、これ1977年の小説なのか。確かに価値観や文体にあれれ、と思うところはあったけど、全然古びてないよ。あと、26歳でこれを書いてしまったのか、この作者は。