時間封鎖

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

界面を作った存在を、人類は仮定体(仮定上での知性体)と名づけたが、正体は知れない。だが確かなのは―1億倍の速度で時間の流れる宇宙で太陽は巨星化し、数十年で地球は太陽面に飲み込まれてしまうこと。人類は策を講じた。界面を突破してロケットで人間を火星へ送り、1億倍の速度でテラフォーミングして、地球を救うための文明を育てるのだ。迫りくる最後の日を回避できるか。ゼロ年代最高の本格SF。ヒューゴー賞受賞巨編。

アメリカの現代小説だったなあ、というのが素直な感想。
良くも悪くも9.11以降のアメリカを色濃く反映した現代SFだった。
スピン膜が象徴するのは近年のアメリカを取り巻く不透明な社会状況(イラク、テロ、貧富の差、社会不安)だし、三人の主人公の立ち位置はまさにアメリカの様々な層の人々を反映しているものになっているだろう。
上巻を読んだときに、一般小説の色が濃いなあ、と思ったけど、下巻になってさらにその傾向は強まる。巨大なプロジェクトが次々と動いていた上巻とは打って変わり、『火星人』を名乗る男が現れた当たりから、ぐっと内容は観念的になっていく。社会の大きなうねりに対し、人はどう生きるべきなのか?
結局正しい答えが出せず(そんな物は元々無いのだが)、それでも目の前の現状に対し精一杯生きるデュプリーの姿はアメリカの人々の姿そのものなのだろう。そういった意味において、日本でのうのうと暮らしている腐れ学生の私にこの小説が正しく届いていたのか自信がない。
しかしまあ、それでも次々と明らかになる謎は実に読んでいて楽しかった。結局は主人公たちとはほとんど関係ないところでお話の大きなケリ(そもそも膜とは何なのか、とか)がついてしまって、あっさりとしたラストに少々不満は残るが、その大きなスケールと個人の小さな物語を同時に語り、しかもここまで読ませてくれたという点は大いに評価したい。
(追記)
これ、今すぐハリウッドで大々的に映画化したら絶対ヒットすると思うんだけど、だれか映画化せんもんかね。